君に百回『好き』と言って死ぬ
〈#09 本音〉
「あとは……。なるべく少ない時間だけでもいいから蒼と過ごしたい」
「……うん」
「だから、どうすればいいんだろうなって」
言いたいことはすべて言った。なんて返ってくるか。
「まあ、ね。言いたいことはわかったよ。それでの言い分なんだけど、『いいよ。やりたいこと全部やろ』っていうのが答え」
思いがけない言葉に俺は目を張った。蒼からそんなことばが出てくるなんて、思いもしなかった。
「なんか変だった?」
「いや、蒼からそれが言われるとは思わなかったから」
「そっか。まあ、性にあわないこと言ったかもね。だけど、私はそれでいいと思ってる。そうじゃないと、梁くんが思い残しちゃうかなって……」
「⁉」
何故驚いたか。なぜまた目を張ったか。それは。
――蒼が泣いていたから。
「蒼⁉ 大丈夫か⁉」
「あ……。うん、平気……大丈夫……」
絶対に大丈夫じゃない蒼をそっと抱きしめた。
それに目を張った蒼は服を強く抱きしめ、咽び泣く。嗚咽を漏らし、駄々をこねるような子供みたいに泣きじゃくった。
「私、本当は嫌だった……。梁くんが死んじゃうなんて……嫌だった……っ! 最愛の人が死ぬなんて、耐えられない!」
「……っっっ」
感情に任せて本音をぶちまける蒼。確かに最愛の人が死ぬのは耐えられない。どうにかならないものか、ただ叫ぶ。
「どうにかならないの……⁉」
「よしよし」
「ううううぅぅぅぅぅ……」
俺には、ただ撫でることしかできなくて、どうすることもできなかった。どうすればいいのかが解らない。何度か泣いたことはあったけど、大抵は時間が解決してくれるばかりだった。
だが、今回は時間が解決してくれそうにない。どうすればいいのかが全くわからない。
ただ一つだけ、できそうなことがあるから、挑戦してみる。
「……蒼さんや」
「なに……?」
「蒼は今、何がしたい? なんでもいいぞ、ハグでもキスでも」
「……とにかくあまえたい。今日は梁くんの家に泊まりたい」
「わかった。ただ、親の承諾なしだと危ないから、そこは俺が連絡しとくよ」
「……うん。ありがとう」
「じゃあ、帰るか」
「うん」
そう言って、俺らは手を繋いだ。しっかり離さぬように。俺の命が尽きるまで、この子と共がいいと、改めて感じた。
この子を手放したくない。ずっと抱きしめていたい。ずっと隣にいてほしい。
必ず解決策はある筈だ。その道を探しながら、ゆっくりしていたい。
いつか、結ばれる未来を夢見て。
「「ずっと一緒だよ。大好き」」
同時に同じ言葉を放ち、同時に吹き出す。
嗚呼、神様。いつしか、この子と結んでください。
ずっと、ずっと。
生死、何もかもの瞬間も一緒がいいと願う。
俺にできることはちっぽけだし、頼りっぱなしだけど、いつまでもこの子と一緒に――
『一寸先は、闇。時々虹』
――梁が死ぬまで、残り90日
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