君に百回『好き』と言ってから死ぬ
〈#10 二人旅(上)〉
今日から学校は一週間お休みの「秋休み」らしく、学校がない。あるとしても強化部ぐらいしか部活をしていない。
俺らは文化部なのでぶっちゃけると暇な一週間だ。
――いつもなら。 今回は違う。蒼が「旅行に行こう」といってきたのだ。いつ死ぬかもわからないから、まだ先が長そうな今のうちに二人の思い出を作りたいらしい。
まあ断る理由もないし、久々の旅行なので行くことにした。正直を言えば楽しみで仕方がなかった。
* * *
早朝六時。最寄りの駅に来ていた。いつもなら一緒に行くが、駅で集まったほうがいい感じがしていいというので駅に集合にした。「六時……場所もよし、時間もよし、よし完璧」 一人で仕○猫みたいなことやってると、蒼がやってきた。
「……おまたせ」
蒼さんの服装は茶色のガーディアンに長めの黒のスカート、それとブーツを履いて薄っすらと化粧をしていた。
「ど、どうかな……」
おずおずと尋ねながら上目遣いとかほんとにずるいと思う。
「ベ、ベリーキュート……」
「できれば日本語で」
「とても可愛いと思います……」
「えへへ、梁くんに褒められたくて頑張ったんだ。梁くんが喜んでもらって嬉しい」
「ぐはっ!? 威力が高すぎます……」
駅前で一人でうずくまってたら通行人に変な目で見られた。
「どうしたの?」
何事もないかのような態度……。メンタル強すぎじゃないですか?
「いや……なんでもない。行こっか」
「手、繋いでもいいかな……」
そういう仕草がいちいち可愛いんだよ! 尊死させる気か。
「あ、ああ。だめなわけ無いだろ」
そう言って葵の手をそっと握った。
女の子の手は柔らかくて暖かくて、なんだか壊れそうで、守ってあげたくなった。
――いつか、死を迎えてしまったら。
――いつか、この手も握れなくなってしまったら。
――何も出来ぬまま死んでしまったら。
――この優しい顔も、手も、何もかもが奪われてしまったら。
――葵の優しい笑顔が壊れてしまったら。
――何も守れないまま死んでしまったら――
「そんなのって……」
葵に聞こえないぐらいの小声でつぶやく。
そんなのって、あまりにも残酷すぎないか――。
「どうしたの? 悲しそうな顔しちゃって」
「いや……。なんでもないぜ。さ、行こうか」
「? うん」
――この感情は言えぬまま終わるのか。
「……梁くん」
「はっはい!」
この感情がバレたか、などと変な不安を持ちながらも反応する。
「絶対隠し事してるでしょ。隠し事は禁止。それと、せっかくの旅行だから楽しまないとだめ」
「そうっすよね……。すいません」
そうだ、今は旅行だ。楽しまないと後々後悔する。
「辛いことは全部私に言いなさい」
「うん」
今更だし、言うことにした。今後は何も考えてないが、言わないよりはマシだろう。
「何ていうか、俺の告白病はどうにかならないか、考えてたんだ。何もできないまま人生を終わらせるのは死んでも死にきれないからな」
「そうだね。私が思うには、梁くんの告白病は自分でどうにかできる気がする」
何の根拠もないことを言い始めた葵さん。
それを付け加えるように指を立てる。
「まず一つ目。なんで梁君だけが『告白病』というものが出てるかがわからない。普通そんなものがあるなら世界中何億人という単位で死んでておかしくないのに全くニュースにならない」
「確かに」
確かに、そんなに大変な病気なら指定難病になるし、普通特効薬は作られるはずだ。
それを作られないのは矛盾も感じる。
続いて指を立てた。
「二つ目。告白病なら何故その症状が出ないのが不可解。ざっくりとした症状だし、症状も言われてないんでしょ?」
「うん……」
「それがどうも引っかかるんだよね」
うーん、と急に推理を始めた葵さん。探偵みたいでかっこいい。
「そうか……」
「まあ、そんなに落ち込まなくても。簡単に答えを言えば、梁くんはあんまり気にしなくていいよってこと。私がついてるからね!」
「うん。ありがとう」
そう言って軽やかに笑った葵さん。実際に相談したら心が軽くなった気がする。
頼りになるのはかわいい彼女です。これからもたくさん相談させてもらおう。
「梁くん梁くん! 新幹線だよ!」
「葵は新幹線に乗るの初めてだっけ」
「そうだよ。だからすごく楽しみ!」
ここまではしゃいでる葵さんも珍しい。しばらくは好きなようにさせてあげよう。
でも、ここまではしゃいでるところもあまり最近見ないのでなんだか新鮮な気分だ。なんだか面白い。
そして新幹線やバスを乗り継ぎ、およそ三時間半。目的地に到着した。
「ん〜〜っ、空気が美味しいっ」
背伸びをしながら満足そうに足取りを始めた葵さん。到着したところは温泉街。
古風な建物の作りと硫黄の匂いがなんともたまらない。
「温泉はやっぱいいなあ」
「そうだねえ。ね、そこの足湯に行こ!」
「はいよ」
そう言って軽やかにスキップしていく葵さん。やっぱり葵さんとの時間は楽しくて幸せなものだ。
その後、足湯だのおでんだのをたくさん食べながら、街を散策していた。
「梁くん、『煮込みそば』っていうやつ、美味しいのかな」
この温泉街の名物らしい、『煮込みそば』というものが気になる葵さん。
見た目は温かいそばだが、味は一体どうなんだろうか。
「わからん……食ってみるか?」
「うーん……梁くん的にはどう思う?」
「まあありじゃないかなと」
「じゃあ食べよ!」
「おう!」
割と即決な葵さん。まあ食べて見る価値はあるかと。
店内はレトロな雰囲気で落ち着く感じが良い。
「わ、メニューも豊富だ……。美味しそう……」
「昭和のオムライスとかうまそうだな」
メニューも昔なつかしの感じがとても良い。写真だけでも美味しそうだ。
「食べてもよろしき?」
葵さんが謎の言語を開発した。
「そんな言葉使わなくても食べていいよ。たくさんお食べ」
「やった!」
そうやって少しもどかしそうにも喜ぶ葵さんが可愛いです。
「おお……味は悪くないな」
煮込みそばは思った上に美味で、あっさりと完食できた。
味として一番近いのはおでんのようなあたたかい蕎麦のような。出汁が煮干しでさっぱりして美味しい。
「ほうひは、はほひふぁん」
「なんて?」
食べながら喋ったので言語になっていなかった。
「そういや葵さん」
言い直した。
「はい」
「宿とかは決まってるんですか?」
「あ、忘れてた」
「ならなぜ旅行に行こうなどと」
「えーと、そのー、たまには息抜きも重要かなと」
「つまり思いつきですね」
「えっと……はい……」
たまにこういう行動する葵さん。まあ可愛いからオールオッケーなのだが。
「とりまそろそろ宿決めないと暗くなるぞ」
「そうだね。おすすめとかある?」
「うーん、ここなら個々の宿とかどう?」
「お、ここいいね。温泉もあるらしいね」
「じゃあここにしますか」
「はーい」
そんな会話をしながら電話をする。今日は天気もいいし、平日だし客も少ないだろう。
――なんて考えていた時期が僕にもありました。
「葵さん」
「ふぁい」
なんか気が付かぬうちにアイスを食べ始めていた。
アイスを食べる女子って、なんかくるものあるよな。
「残念なことに部屋はあったんだけど、一部屋しかなかった」
「……え? それって、つまり……?」
「まあ、多分そういうことだろうな」
「え、まってやばい、え、どうしよう」
「めちゃ困惑してる葵さん珍しいな」
そう、部屋はあった、あったのだが常時人気らしく、今日も一部屋しか残っていなかったらしい。
男子と女子が、一部屋で、泊まる。
最悪事件現場になりそうなのが怖い。
「で、でも? 梁くんなら、そういうこともだめじゃないけど……?」
「…………」
絶句した。まさかの誘い文句。これは一概に「やれ」って言われているようなものではとか思ってしまう。
「と、とりあえず楽しまないとな!」
「そ、そうだね!」
なんか発生してしまった気まずい雰囲気を解消しようと話を逸らすもなかなかにその雰囲気は消えなくて。
その後も素直に楽しめずに緊張が走っているのは葵さんが言った台詞からだろう。
――梁が死ぬまで、残り90日。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?