〈SS〉一発の銃声(茜ver.)
私の名前は茜。神奈川県に住む一般的な女子高校生だったりする。
今日はクラブも習い事もなく、テストも近いわけではないので、LINEのTLを探る。
「あー、なんか暇だなぁ。誰か話しかけてくれないかなぁ」
そんなことを呟いていると、見つけてしまった。
——一人が死ぬ自殺予告を。
TLには“俺は死を決意した。明日、俺は死ぬ。その代わりにお前らがしたいこと、全部しよう”と書かれていた。これは動揺を隠しきれない。そして悩んだコメントが「え?」の一言に。そしてすぐにリプが返ってきた。「詳しいことは電話で」と。
彼、明声君との関係は付き合っているわけではないけど、それなりに仲がいい気はする。電話もするし、長時間トークしたり、互いの悩みを打ち明けたり。
そして、トーク画面に「んじゃ、電話かけるね」とだけ来て、電話が始まった。
『よ』
毎回思うけど、挨拶が軽い。地味にイラっとするのは私だけか? まあでも、今はそれは置いておこう。
「ど、どうしたの? いきなり生死を彷徨ったりして」
『いつものことだろ』
「ええ……」
どれほどに自分のことに無頓着なのか。自分のことが憎いみたいな言い方してる。
『それで、『嫌なら無視してくれ』と書いたのに、どうして反応したん? 別にそれが悪いわけではないが』
募り募る怒り。まるで嫌いな人と対話してるみたいな反応だ。
「そりゃ、心配にもなるでしょ。大切な人がいきなり「死ぬ」なんて言い出したらさ。なんかあったの?」
少し気恥ずかしい気もするが、まあそれはいいや。少しだけ笑みが聞こえた気がした。遊ばれたようだ。
しかし、これは真剣な話だということには気がついているのか、急に真剣になった。そして、語り始めた。自分がなぜ、死にたいのか。
『茜には言ってないかもしれないが、俺は周りの愛情だの愛憎だのそんなことはどうでもいい。ただ死にたい。「この世」という概念が、秩序が、世界が嫌で、生きていくのが苦痛で仕方がない。周りの人からは罵倒され、厭味を言われ、貶され、見捨てられてそれでも「生きたい」と言う人間はいない。俺は“一人の人間”ではなく“ひとつのゴミ”として、この世の排出物としてゴミはゴミ捨ての日に可燃ゴミ達と一緒に処分される。そんな、「生まれた意味など皆無」な俺を誰が必要としてくれよう。だったら死んだほうがマシだ。ただそれだけのことだ』
「…………」
私は絶句した。あんなに明るくて、優しくて、頼りがいがあるのにそんな闇を抱えているなんて思いもしなかった。でも、私は彼に死んでほしくない。だって、まだ、言えてない。まだ、好きだということを——
『……と、言うわけだ。いろんなものに対抗しながらさらに虐めを堪えぬ抜けれる奴はいない。そう言うわけだ。お前が何を言おうと俺は死ぬ。余計なことはするなよ』
早くに切り上げたいのか、彼が早口になってきた。
「……わかった。余計なことはしない。だけど、これだけ教えて。今、どこ?」
『そんなもの聞いてどうする』
「今からそっちに向かう」
段々と感情的になっていく電話。彼も段々感情的になっていく。
『来なくていい。無駄足だ。まあ、強いて言うならビルの屋上かな』
何処のだよ! と、叫びたくなったが、あえて言わなかった。彼が早死にする可能性が上がる。すると、電話越しで「カチャリ」と、機械のような音が聞こえた。
「なんの音?」
『なんでもない』
焦る素振りも見せずに何かを構える彼。絶対にヤバいやつだと言うことしかわからない。
「私がそこにつくまで自殺禁止」
『来なくていい。来る必要もない』
「ま、まって——」
まだ、何も出来てないのに。恩返しも、慰めも、告白も。死んでほしくない。のに——
パァン、と、一発の銃声が電話越しに聞こえた。
何も出来ずに私からしたら大切でそれ以上に大切なものはない尊くて儚いものが失われた。
「まだ、何も出来てないのに……。如何して? 如何してこんな目になるの? 意味わかんないよ……。誰か、教えてよ……」
失って初めて、その物の大切さが体感できて痛感もできる。
「私を一人にしないでよ…………」
次々と溢れ出てくる負の感情。涙。その涙は拭われることなく蒸発していった。
それ以降電話からは何も聞こえなくなった。二度と彼と話すことはできなくなった。