連続短編小説集[int i]
【5:両片思い】
彼に片思いを初めて早一年。
時間軸が飛んでいる気がするが、そんなものだ。
私の世界ではもう夏になろうとている。
「あっつ……」
今日も湿度が高くてじめじめとした暑さが体を蝕む。
あの日以降、彼とは一日一通以上の会話をしているものの、話が盛り上がらず、そのまま次の日に、なんてザラになっている。
でも、私の中の感情は高ぶりを増していて内なる感情が爆発しないかが不安だったりする。
その感情は——
私は極度に寂しくなると主に家で泣き出してしまうほど感情が砕かれてしまうのだ。
その感情は今はまだ出ていない……嘘、何度か出てる。
そのたびに彼に「寂しいよ」と送ってしまい、彼を何度か困らせた。
次の日に起きたら『絶対に嫌われた』と自己嫌悪をしてしまう。
何度か彼とデートにも行った。
何度か性交もした。
でも、彼は何も態度を変えてくれない。
そんな私は今日も今日とてLINEを彼に送る。
「こんにちは。今日って時間あったりする?」
二秒で既読が付き、返事が返ってくる。
『こんにちは春さん。今日は二十二時以降であれば暇ですよ』
なるほど。
今日は二十二時以降……と。
ついでにこんなことを聞いてみる。
「狼くんって彼女とかほしくない?」
『彼女……は欲しいと言えばほしいですね。でも、なんで?』
彼女は欲しい……と。
そろそろ潮時かな。
最後に攻めた質問をしてみる。
「いや、なんとなく。ただ、私とか彼女にできないかな、と」
『なるほど……春さんを彼女に……アリですね』
やっぱなしk……えっ。
アリなの!?
「本当に!? こんな私でもいいの!?」
『アリですよ。ただ、診察室とかでは控えめにしてほしいぐらいですかね』
これまでに診察室で何度か彼に抱き着いてしまったことがある。
ただ、それは立とうとした私がよろけて躓いたのを彼が支えてくれただけだ。
事故でしかない。
なのでわざとではない……と思う。
「だからあれは事故だって。わざとじゃないし」
『本当に? 狙ってない?』
発言が少し癪に障るがそう思われても致し方ないぐらいの頻度で起こっているから何も言えない。
「と、とりあえず! 今日の二十二時半に、渋谷のいつものところに集合で! じゃ!」
『あー逃げたー』
最後に『逃げた』と言われたが、見て見ぬふりをしておこう。
今日の二十二時半、楽しみだな。
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