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君に百回「好き」と言ってから死ぬ

〈#5 学校〉

 デートが終わった次の日。学校に行くのも久しぶりな気がする。

「……昨日は楽しかったな」

 昨日の振り返りを反芻する。実際、楽しかったのは言うまでもない。こんな日がずっと続けばいいなと思う。

 このことをずっと思ってても遅刻するから学校に行こと思ったら——

「おはよ」

 蒼だった。こんな朝からどうしたのか。

「んあ、おはよう。どうしたん?」

「どうしたも何も学校でしょ」

「あそっか」

 完全忘却していた。蒼も学校に行く日だったことを。

 学校に行く理由は夏季講習。確か蒼は英検準二級を受けるとかなんとか。あとは数学や現代文など、と、本人は言っていた。ちなみに俺は数学と国語全般だ。

「せっかく学校あるなら、一緒に行こ?」

(……なんだこの生き物。めっちゃ可愛いな)

 強請るような上目遣いとかめっちゃ可愛い。ほかのやつに自慢したいぐらいだ。

「……手、繋ぎたいな。いい?」

「もちろん」

 急にねだるような表情とかめっちゃ可愛いし。手を繋ぎたくなる表情も可愛い。可愛いの無差別攻撃。

「そういや、梁君は英検とかどうするの? 受けるの?」

「んーまだ考え中。受けてもいいけど、難しいってよく聞くし」

「実際、難しいからね。準二級は高校二年生ぐらいの難易度だしね」

「そうなのか。んー……悩ましい……」

「まあ、受験までしばらくあるし、そのうち決めておきなよ」

「ういー」

 なんだか、ほっこりするこの会話。すごく、好きだ。

 こんな毎日がずっと続けばいいのになんて、無理難題を思ってしまう。

「……なんか、考えてる?」

「え?」

 心を見透かされた? それとも表情に出てたかな? なんで分かったんだろう。

「全部表情に出てるよ」

「ま、マジか」

「相談事? 言ってみ?」

「いや、こんな日常が続けばいいのになー、って、思ってるだけだよ。この今の時間がすごく好きだから。だから、続けばいいのにな、なんて思ってるだけだよ」

「確かにねー、それは一理ある。この時間は私も好き」

 キーンコーンカーンコーン。

「「あ——」」

 そんなことを考えていると、あら不思議。学校の予鈴が鳴った。

「い、急げ!」

「うっかりしてたね」

 話していた場所(家)から全速力ダッシュ。転びそうになりながらも、一応時間ギリギリに到着した。一応、間に合った。

「それじゃ、私はこっちだから。また後でね。あ、それと、お菓子を授業中に食べちゃダメだよ?」

「しねーよ」

「梁君ならやりかねない」

「なんだとー」

「それじゃ、またね」

「おう」

 そうして蒼と別れ、教室に向かう。2-B組はもう先生が着席していた。後少し遅れたら遅刻だった。

 そしてみんなに笑われた。笑うなし。

 そして過ぎゆく授業。はっきり言って眠い。めちゃくちゃ眠い。

 だが、ここで寝てしまっては蒼にしごかれてしまう。

「・・・・・・・・・・・・?」

 なんだろう。一つの視線を感じた。誰かからじっと、見つめられているような感じがしてたまらない。

 なんというか、むず痒い。やめて欲しい。

 そして気がつけば授業が終わっていた。後半からしっかり寝た。

 生徒玄関に行き、蒼と合流。

「梁くんは寝たらしいね? ちゃんと受けないとダメだよ?」

「はい……」

「もう。じゃ、帰ろっか」

「おう」

 やはり怒られた。けど、何故かそれ以上は言われなかった。何故だろうか。

 帰り道。オレンジ色と朱色の混ざった空が綺麗だ。

「…………」

「……? 蒼、どうした?」

「や、その、なんでも……ない」

(どうしたんだろ)

 何故か照れているし、やけにもじもじしている。不思議だ。

(はっ‼︎ もしかして、蒼はアレをしたがっているのか⁉︎)

 そんな変な妄想しながらも、心のうちに秘めておくことにした。

 だが、心配なので、聞いてみることにした。

「……なあ、どうしたんだ? なんかおかしいぞ?」

「…………」

「なぁに、誰にも言わないし、秘密にするって。だから、言ってみろ」

 観念したのか、諦めたように蒼が口を開く。

「今日、なんの日か忘れてるでしょ」

「今日……? あっ!」

 今日、七月十四日。交際記念日一ヶ月だ。

「……完全に忘れてた。ごめん!」

「むぅ……。梁くんだからゆるします。以後気をつけるように」

「ウィッス」

 ほっぺを膨らませながら怒りを表す蒼さんが可愛かった。今日は、蒼の言うことでも聞いてあげるか。

「蒼さんや」

「なぁに?」

「なんかしたいことある? せっかく一ヶ月だし」

「うーん……たくさんあるけど、やっぱりこれかな」

 そう言って蒼は俺に抱きついてきた。優しく抱きしめられた。俺もそっと、壊さぬようにハグをする。

「……やっぱ、落ち着くな。梁くんの腕の中は。毎日ハグしたいぐらい」

「そ、そんなにか……」

「うん。だって、優しいもん」

 何が? と聞きたかったが、だいたい察しがつくので聞かなかった。

「……いいぞ」

「えっなにが?」

「いや、ほら、毎日ハグぐらいなら全然いいぞってこと。俺も一番好きな人とハグとかできて嬉しいし、安心する」

「そ、そっか……」

 だーもう照れんなよ! こっちまで恥ずかしくなるだろ! とか思いながら、ハグはやめない。

 夕焼けと今の俺たちが同じように彩る。

 しばらく、ハグは続いた。たまに力が強くなる。それだけお互いが好きだとわかる。

 そして、そっと離れた。

「えへへ、なんか寂しいね。でも、毎日できるってわかって、嬉しいな」

「お、おう」

「これからも、よろしくね?」

「それはこっちのセリフだぞ」

「さ、帰ろっか」

 そう言って蒼はスカートを翻す。そして二人はぴったりくっついて家に帰る。

(俺は蒼のことが——)

(私は梁くんのことが——)



「「——好きだ」」



「「…………」」

 二人ハモって一斉に吹き出す。

 神様、こんな日常が、永遠と続きますように。






 ——梁の死亡まで、残り94日。

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