連続短編小説集[int i]
【3:邂逅】
「……春さんって鈍感だから気が付いてないよね、俺のこと」
そう口にしたのは日花狼という呼び名があるが、本名は——
つい先ほど、患者の一人である橘春さんに「困りごと用で連絡先が欲しい」と言われ、連絡先を渡した。
だが、俺は一つ重大な嘘を彼女についている。
先天性終末性昏睡症候群。
——彼女はその病ではない、というものだ。
俺は嘘つきだ。
前に救急搬送で運ばれてきたときは驚いた。
——昔の姉が、運ばれてきたのだから。
原因はただの栄養失調。
栄養剤を点滴で投与して経過観察、再度診断だけだったのに、医師としてあるまじき判断をしてしまった。
でも、今こうして話せているので問題はない。
——そう、間違った判断をしてしまった。
彼女がそのことを聞いたらどんな反応をするのだろうか。
怒るのか、静かに離れていくのか。
でも、微々たるきっかけでも、どんな未知の病気を発症するかわからない。
だからこそ、まだ復活をしていない彼女は要注意といった感じで経過観察をしている。
でも、先天性終末性昏睡症候群に似ているものが近くにある。
——最小意識状態。
それは、実在する脳機能障害で、自分で判断や会話はできずとも、意識だけはある。
そんな脳機能障害だ。
それに一番似ているといった話が上がり、それを研究することにした。
昏睡症候群と言っても本人の意識がないだけで本能的反応を表すといったのはわかっている。
だからこそ、そんな状態になってほしくない。
しかし、今はそれは大事なことではない。
いつ、俺と春さんが会っていたのか。
それではないだろうか?
その話は少し長くなる。
だから、この明日、この日記に記そうと思う。
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