君に百回『好き』と言ってから死ぬ。
〈#08 文化祭〉
夏休みも終わり、いつも通り授業が進んで行く。
もちろん夏休みの宿題は夏休み前半に終わらせた。
いや、終わらせられた。蒼さんによって。
蒼さんは勉強になるとガチで怖くなる。早く終わらせたいのか、集中しているのか、目が熱でこもる。そんな中声をかけたら……。
なんて、変な事を考えていたが、今年は違った。
なんというか、蒼さんが優しくなった。
今まで「声をかけたら殺すぞ」みたいなオーラ出していたのに、今年は徹底的に教えてくれた。しかもかなり優しく。
優しく、徹底的に教えてくれたので、一週間で終わらせることができた。
「で、だ。夏休みの次はなんだと思う?」
「? 文化祭じゃないの?」
「そうだ! 文化祭だ! ここでな、一つ蒼に決めていた事があるんだ」
「なーに?」
くだらない三文芝居をバカにせず、優しい心で聞いてくれている。いつもの他の女子なら「うざい」だの「その三文芝居やめろやオルァ」だの罵詈雑言が飛んでくるが、蒼はしっかりと聞いてくれている。
そんなところが好きになる要因の一つだが。
「今回の文化祭は、俺がすべて蒼のやりたいことをさせてやろうと思う。まあ、彼氏だからってのと、蒼は結構溜め込む癖があるからな。今回の文化祭で少しでも発散させようと思ってな」
「……なるほど。うん。じゃあそうさせてもらおうかな。それともう一ついい?」
「何だ?」
「文化祭が終わったあとでいいんだけど、ちょっと行きたいカフェがあるの。行ってもいいかな」
蒼もカフェとか行くのか。ずっと勉強一筋かと思ってた。
「おう。俺が奢ってやるぞ」
「ふふ、ありがと」
そう言って微笑んだ笑顔は網膜に焼き付けることにした。
俺たちのクラスは特に料理を出すわけでもない、ただの展示会だが、蒼さんの小説は人気になっている。
「……蒼って、基本何でも人気だよな」
「なぜだかはわからないけどね。なんかこうなってた」
「嫉妬するぞ」
「もぉかわいいなあ」
そう言って俺の頭を撫でてくる蒼さん。こんな時間がずっと続けばいいのになんて思ってしまう。
その才能が憎いなんて思ってしまう。が、心のうちにしまっておく。
「文化祭、楽しいね」
「そうだな」
最近は楽しい時間が多すぎるぐらいだ。
こんな幸せな時間、いつか終わりが来そうで怖いな。
「……どうかした?」
「いや、未来のことがね」
「心配事は何でも言ってね」
「ありがとう」
「うん!」
頼られてとても嬉しそうな蒼さん。
また少ししたら、言わないといけないかもしれない。
――「告白病」のことを。
まあ、それは今はおいておいて、文化祭を楽しもう。
その後はゲーム対戦をしたり、屋台物を食べたり、とにかく楽しんだ。
そして文化祭が終わり、蒼が言っていたカフェに行くことにした。
「ほんとにいいの? 奢ってもらっちゃって」
「いいって。好きなだけ食え」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
そう言って頼んだのはいかにも可愛らしげなパンケーキ。値段は1080円だった。高い。
「ん〜っ。生クリームとケーキが相まって美味しいっ」
食レポうますぎかよ。俺でもこんな事できないぞ。
やっぱり、どこかで勉強頭が働いてしまうのだろう。
まあ、そんなところも可愛いんだが。
「ん、私の顔になにかついてる?」
「いや、蒼が可愛かったから、つい」
「そ、そっか……」
少し顔を赤らめてるのもまた点数が高い。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「それは何より」
会計を済ませ、家路に帰宅しようとすると。
「少し、遠回りしよ」
「……? わかった」
一体なんでだろうか。なにかお気に召さなかっただろうか。
でも手はしっかり握られている。
だとしたら――。
* * *
しばらく歩いて、川の土堤に到着。
「涼しいね」
「おう。それで、なんかあったか?」
「…………」
なにか、やらかしてしまっただろうか。
知らぬ間に蒼を傷つけるようなことしただろうか。
「あ、蒼さん?」
「隠してるでしょ。自分のことを」
「え?」
「『告白病』、隠してるでしょ」
「え――」
なんで。なんでそんなことを知っているのか。絶対に知らせたくないと思っていたのに。なんで、なんで、なんで――
「まあ、そう落ち込まなくても」
「え?」
「そりゃね、最初はびっくりしたけど、もはや分かれたかな。そりゃ、そんな重大なこと抱えたら黙るのもわかるよ」
そのまま蒼は悲しそうな顔で物申した。
「だけどね」
怖い。蒼に何を言われるかがわからなくて怖い。もしかしたらなにかされるかもしれない。別れ宣告を受けるかもしれない。
何がいけなかった? 騙し? それ以外? 何もわからない。
「何も言ってくれないほうが、寂しいよ」
「そっか……」
怒られるかと思ったが、そうではなかった。
でも。
「ごめんな、言えなくて。そこまで俺が情けなくて」
「……ううん、今、言ってくれてるから嬉しい」
「そっか。正直、なんでこうなったかは解らない。ほんとに。だけど、残された少ない時間でも蒼にらくさせたいなって思って、苦しめたくないって思って……」
「うん」
蒼はアドバイスも何も言わずに聞いてくれている。なんの返答が帰ってくるかはわからないが、今更だからもう隠さずに言ってしまおう。
「だけど、な。その言葉を百回言うだけで死ねるなら少し楽だなとも思っているんだ」
「うん」
「楽な反面、すぐに蒼と別れたくないって思う自分もいる。だから、何をすればいいのかがわからない」
「そっか。あとは?」
なんだか心うちを覗かれているようでなんだかこそばゆい。
「あとは……。なるべく少ない時間だけでもいいから蒼と過ごしたい」
「……うん」
「だから、どうすればいいんだろうなって」
言いたいことはすべて言った。なんて返ってくるか。
「まあ、ね―――」
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