ゲームをプレイしました: 黒神話:悟空
どういう記事か
ゲームをプレイしての感想やら考えやらを備忘録的に残しておくための自己満記事シリーズである。ゲーム開発者でもジャーナリストでもないズブの素人が、肩肘張らずにザクザクっと書いている代物なので、内容の正確性や購入判断の参考になるかどうかについては期待しないでほしい。
前回の記事と今までのシリーズはこちら。
黒神話:悟空は中国のGame Scienceによって開発されたアクションRPGタイトルである。Game Scienceというのは聞き慣れない名前だが、どうやらテンセントなどの出資を受けているものの実質スタートアップ企業であるらしく、同社の最初の一大プロジェクトのようだ。
ゲームの概要としてはかの有名な西遊記をモチーフとし、同作のその後を描いた作品だ。孫悟空の遺志を継ぐ天命人と呼ばれる存在になり、西遊記ゆかりの土地や人物、敵と出会いながら中国大陸の雄大なロケーションを進んでいくものになっている。
総評
良いゲームだ!アクション面もグラフィックなどの演出面も非常に完成度が高いし、グラフィック品質の高さと動作の軽快さを非常にいいバランスで両立している。ゲームシステムについてもすでに世に出て人気を博している様々なシリーズで見たことのある要素をうまく配分し、このゲームのテーマ感に沿うよううまく調理されていると感じる。一方、調理が無難なためこのゲーム独自の強烈な個性や心に突き刺さるような体験はそんなにない。無難なゲームである。
ストーリーはぶっちゃけ原作の西遊記を読んでいないとよくわからないが、素人でもざっくり何が起きているのかくらいは理解できるつくりになっているし、同作への愛が込められた作品になっていることは伝わってくる。
この完成度のゲームが実質立ち上がったばかりのスタジオによる初めてのAAAタイトルなのか?恐ろしいことだ。
グラフィック、演出、ストーリー
順番がおかしい気がするが、システム面の話の前に見てくれの話をまとめようと思う。
まずはグラフィックの話だが、これは素晴らしいの一言に尽きる。Unreal Engine 5を用いて構築されているとのことだが、単に見た目だけ整えたようなアセットフリップの類のものとはレベルが違う。中国大陸をモチーフにした雄大で多種多様な自然の情景と、仏教文化を体現する精巧な建築物、そして時には神話的で壮大な、いい意味で嘘くさいオブジェクトや演出も散りばめられており、そのスケールに圧倒される。
フィールドの見た目も鬱蒼とした温帯の森から砂漠、雪山、果ては天界のようなところから地獄めいたところまで、バリエーション豊かであり飽きが来ない。フィールド内の探索の楽しさに貢献してくれるし、次の章ではどんなところで何が起こるのか?というワクワク感にもつながる。
フィールドだけでなく敵やNPCの造形も見事だ。各章ごとにフィールドの雰囲気ががらりと変わるのに合わせ、登場する敵の種類も完全に変わることで、フィールドやストーリーとの一体感を体現してくれていると同時に、常に新鮮な体験を提供してくれるようになっている。ボス敵のモーションも凝って作られているし、エフェクトの品質も良いので戦っていて気持ちがいい。
一部蜘蛛の妖怪にフォーカスしたエピソードがあり、某ハンティングゲームで蜘蛛恐怖症モードがあって助かったみたいな人がプレイしたら卒倒しそうな演出がある箇所があるが、個人的には動き自体はある意味人間的な気がして嫌悪感はなかった。エルデンリングのデケェ蟻よりは500倍マシである。
ストーリーは総評でも書いたが、正直西遊記を知らないとよくわからない。西遊記ゆかりの人物や敵がいろいろあって味方になったりボスになったりしてるんだな~ということは分かるが、西遊記用語や仏教用語が多く、言い回しも詩的で回りくどいので、小説版や各種ドラマ版がめっちゃ好きで何度も読んで/観ていたような人でないと100%理解しながらついていくのはだいぶ厳しいというのが正直なところだ。
一応、話の流れとしては西遊記本編のその後の物語ということになっている。天竺への取経の旅を終えた孫悟空が、その後やっぱり天界で大暴れし、天界の使いと戦って敗れて討ち死にし、その力が6つに分かれて世界に散らばってしまった。プレイヤーはその遺志を継ぐ存在みたいな感じの天命人と呼ばれる猿として、孫悟空復活を目指して6つの「根」を得る旅に出るという流れだ。ドラゴンボールかよ。
上記のとおり原作を知らない状態だとディテールをつかむのは難しいが、なんとなく背景と流れを理解したうえでムービーを見ていればなんとなく雰囲気はつかめると思う。仏教的な概念や教えについても日本人であれば無意識下で馴染んでいる類のものだと思うので、そういう意味でもある程度の親しみやすさはあるかもしれない。知らんけど。
ちなみに本作では作中の音声を英語か中国語から選ぶことができるが、圧倒的に中国語音声がおすすめだ。言っていることは英語よりも分かりづらくなるかもしれないが、親和性、一体感が段違いである。日本語訳文の品質も悪くないのでそこは安心だ。
アクション、システム
ゲームのコアの部分に話を移そう。
このゲームは三人称視点のアクションRPGで、一本道状のフィールドを敵を倒しながら進んでいき、要所要所のチェックポイントがセーブポイント兼補給ポイントとなりながら、ステージ制覇を阻むボスを倒していくといった感じだ。こう書くと大変ダークソウルっぽいが、その辺は後述。
アクションは小攻撃を当てたり敵の攻撃を回避して溜まるゲージを消費し、一発の重い溜め攻撃をカチ込むという流れの繰り返しになる。この溜め攻撃の有効性の高さに気付けるか気付けないかで序盤の難易度が大きく変わるので気を付けよう。手数が多いばかりで敵が全然死なないから爽快感が全然ない劣化版ソウルライクみたいなエアプ丸出しの低評価レビューをつけて去っていくかわいそうな人にはどうかならないでほしい。
上記の基本アクションに加え、敵の動きを一定時間止めるだとか、身代わりを生成して敵のタゲをそちらに集中させる、過去に倒した敵に一定時間変身するといった、一定時間おきに発動可能なアクティブスキルが多数存在する。この各種アクティブスキルが(一部を除き)非常に強力で、(一部を除き)大ボスクラスにもバッチリ効く。また、前述の溜め攻撃を当てると敵は(一部を除き)容赦なく怯むし、回復薬の使用可能回数もかなり多いので、相当ゴリ押しがききやすい設計になっていると感じる。
まあお察しの通り終盤の隠しボスとかになると溜め攻撃の回避だったり強スキルに対するカウンターだったりで露骨に潰しに来るのだが、その辺はご愛嬌である。
基本アクションの強化(回避時間アップとか溜め段階解放とか)やアクティブスキルの習得・強化はよくあるスキルツリー方式だ。戦いとともに得られる経験値みたいなのを消費しながらスキルを取捨選択して習得することになる。
スキルの種類は多くツリーも深いが、普通にプレイするだけだとすべてを習得することはとてもじゃないができないため、選択と集中が肝要だ。幸いスキルツリーのリセットもできるので、ビルドで失敗したら数十時間が水の泡みたいなことにはならない。
上記の通りゴリ押しの効きやすい特性に加え、ダークソウルやモンハンなどとは違いアクションはほとんどボタンを押してすぐ反応するタイプのものなので、割と素直に攻撃や回避を行うことができる。死んだとしてもデスペナルティも一切ない。よって、そこまでアクションが得意でない、ソウルライクに苦手意識がある、みたいな人でも普通にプレイできるんじゃないか?と思う。
まあそれなりの回数ボスで死んでリトライすることにはなると思うし、一回死ぬだけでもう無理一切死にたくないというのであればそもそもこういうジャンルに向いていないので、どうぶつの森とかをプレイするのがいいと思う。
そんな感じのアクションを駆使しながら、演出の項で述べた雄大なロケーションを進んでいくことになる。基本的に満足度の高い体験をゲームを通して味わえたわけだが、所々気になるところも散見されたので、重箱の隅をつつくのような内容だが書いておこうと思う。
まずは見えない壁の存在だ。ゲームの特性上マップの隅々まで探索してアイテムや隠しボスの手がかりなんかを探していくのが基本の動作になるわけだが、ちょくちょくマップのあちこちに「通れそうなのに見えない壁のせいで通してくれないところ」が存在しており、肩透かしを食らってしまう。ゲームであればよくあることなので一つ一つはそんなに気にならないのだが、積み重なっていくとこのゲームの背景は背景でしかないという実感とともに、歩けいていける範囲は思いのほか狭いのだという窮屈さを感じるようになってしまう。そのくせ、いかにも見えない壁で阻んでくれそうな崖で普通に落下して死ぬポイントもあったりして、一貫性がない。
アクション面では、先に述べたアクティブスキルが強力というのも良し悪しあると思っている。どうしても体力が尽きるまでにいかにスキルや溜め攻撃を押し付けられるかというゴリ押しの我慢比べみたいになってしまい、フロムゲーのように一つ一つモーションを覚えて緻密にパターンを組むという繊細さ、それによって得られる満足感みたいなものも今一つな印象だ。そのあたりが総評で書いたような、「総合すると無難」みたいな印象に繋がってくるのかもしれない。
「ソウルライク」って何?
このゲームはよくソウルライクのタイトルとして紹介される。確かに前述の通り、設計やアクションにソウルライクと呼ばれるゲームとの類似点もあるし、ソウルライクと呼ばれるジャンルのタイトルから影響を受けているのは間違いないだろう。
だが、個人的にはこのゲームはソウルライクとは呼べないというか、これをソウルライクと呼んでしまうのはだいぶ乱暴だと思っている。これをソウルライクと聞いて買ってみたら全然物足りなかったとか、興味はあるけどソウルライクは怖いから買えないみたいな勿体ないミスマッチも発生する恐れがあると思っている。そのあたりをちょっと深堀りしてみたい。
ソウルライクとは何かというと、一言で言うとフロムソフトウェア社のソウルシリーズみたいなゲーム群のことである。同作やソウルライクとされるタイトルに共通する特徴として挙げられるのは、以下のような要素だと思っている。
シングルプレイである、もしくはマルチプレイ要素がホストに対する支援または妨害のみで、ホスト本位のプレイ体験である
アクション要素がメインのゲームである
非常に高い難易度であり、ゲーム進行をするうえでゲームオーバーを繰り返すことが前提になっている
同時に、死ぬことによって後で有利にはならず、障壁を乗り越えるには基本的に自分が上手くなるしかない
探索→ボス戦→探索→ボス戦、の流れを繰り返すゲーム設計である
ダンジョン探索の要所要所にチェックポイントが設けられており、そこがワープポイント兼回復ポイントとして機能するが、そこを利用すると周囲の敵が復活する=リセットポイントでしかない
所持金・経験値の没収or別途回収が必要になるといったデスペナルティがある
経験値と通貨が共通した概念であり、アイテムを買うか装備を強化するかキャラのステを上げるかのやりくりが必要
といった感じだろうか。
もちろんこれらすべてを満たしていないとソウルライクとは呼べないといった代物ではない。ゲームのジャンル分けあるあるだが、その辺はある程度あいまいなので、誰かにとってはAに該当するがそう思わない人もいるというのが常だ。
例えば、上記の特徴にすべて合致しないとソウルライクでないとしてしまうと、Lies of Pはまごうことなきソウルライクだが、経験値と通貨が分かれているうえにスキルツリー方式だからSEKIROはソウルライクじゃないということになってしまう。いくらなんでもそんなことはないだろう。一方でちょっとでも上記の特徴にかすっていればソウルライクとしてしまうと、エースコンバットやアーマードコアみたいなタイトルまでソウルライクの一種ということになってしまいかねない。いくらなんでもそれは乱暴だろう。
というわけで、ソウルライクか否かというのは1か0かの概念ではなく、上記のような要素が多ければ多いほどソウルライクネスが上がるが、少なくなればソウルライクから離れていくみたいなグラデーションのある概念ということである。
そうするとソウルライクかどうかという議論自体が詮無いことになってしまうのだが、それにつけても本作をソウルライクのゲームと扱ってしまうのは少々雑であるというのが持論だ。
確かにゲームループの設計や死にながら覚えて対策していくみたいな動きはソウルライクっぽさはある体験である。一方で、スキルツリーシステムや経験値の考え方はソウルライク以外のジャンルのゲームで何度となく見たことのある方式だし、ゴリ押しの効きやすさや敵の脅威度(特に道中のザコ敵はマジで弱い)から言ってもソウルっぽさは感じない。死の淵ギリギリのところで最高に生を実感しながら、汗の滲む手でコントローラーを握りしめ、何度も挑戦してついに壁を突破するようなソウルライク特有の感激体験はほぼない。それが悪いと言っているのではなく、単にそういうジャンルのゲームではないということだと思う。
てなわけで、俺はこのゲームはソウルライクではないと思っている。今時ソウルシリーズに影響を一切受けていないアクションRPGなんて存在しないと思うし、そういった数ある現代的なアクションRPGタイトルの一つといった立ち位置だろう。
例えるならば二郎系とインスパイアの違いみたいなもんだろうと思う。そりゃあラーメン二郎が存在しなければこんなラーメンが出てくるとは思わないくらいには影響を受けているだろうけど、これを二郎系と呼んでしまうと少々乱暴すぎる。二郎系を期待してこのラーメンを食ったらガッカリしそうだし、かといってだからこのラーメンがダメというわけでもなく、このラーメンでしか得られない良さみたいなものがある、そんな感じである。
要はダークソウルがラーメン二郎だとすると黒神話:悟空はラーメンどんである。誰に伝わるんだこの例え。
まとめと余談
西遊記に基づいた重厚な世界観が高精細なグラフィック、フィールド設計によって魅力的に表現され、その中を軽快かつ歯ごたえのあるアクションで進んでいける、ソリッドにまとまった優れたゲームである。西遊記原作の知識がないとストーリーが難解な点や、スキルが強すぎてアクションが多少味気なくなっている部分などは少々引っかかるが、それによってすべてが台無しになっているなんてことはない。いい作品である。
余談だが本作は2024年のGolden Joystick AwardsのGame of the Yearを受賞したとのことだ。おめでとう!中国という国としてもGame Scienceという開発スタジオ自体としても業界において歴史の浅いところが、このようなグローバルな知名度を獲得して権威ある賞を受賞するというのは快挙と言って差し支えないだろう。
一方で、GOTYにしちゃあちょっと小粒じゃないか?というのが正直なところである。このゲームそのものの完成度がどうこうというよりは、2024年にリリースされたゲーム全般が少々物足りないラインナップだったことに対する消化不良感が大きい。去年なんかBG3とかいうバケモンのせいでティアキンやホグワーツレガシーなんかがGOTY受賞できなかったんだぞ。それを黒神話が?確かにいいゲームではあるけど……てな感じである。