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#3 和歌山市|形を変え地域に愛される店・「たこ焼03/café blue wood」青木さんご家族

18歳の頃からずっと海に関わる仕事をしていた海の男、青木保豊さんは奥さんの利津子さんと娘さんの真由美さんとともに、仕事の合間でたこ焼き屋とカフェを始めた。保豊さんが焼いたたこ焼きと真由美さんが焼いたお菓子を利津子さんが提供する。そんなお店を訪れた。

こ

1日目・出会い

和歌山市に初めて足を踏み入れた私。西側の海沿いに工場地帯があると知り、散歩がてら徒歩で向かってみる。

炎天下の中30分程歩き、やっとたどり着いた目的地の河西緩衝緑地周辺の散策はすぐに終わった。水分補給を挟みながら帰路につく。
帰りは違う道を通って帰ろうと考えていると、35度にも届くかという気温で頭がぼーっとしてきた。飲み物を買おうとしても歩く道沿いにコンビニや自動販売機がなかなか見つからない。

ふらふらの状態で目に入ってきた「かき氷」の文字に扉を開けずにはいられなかった。

あ

<外から見た店舗の様子>

周りに目をやるとたこ焼きの文字も見える。聞けばこの春(2022年3月)にこのお店をオープンさせたのだという。レモン味のかき氷をテイクアウトで注文した。

ひやひやのかき氷を口にして暑さも和らいだ私は、柔らかい雰囲気をまとったご夫婦が営むこのちいさなカフェにどんな物語があるのか詳しく聞きたくなって、また次の日、ゆっくりお話をお聞きすることにした。

か

<カフェメニューの一部>

2日目・居酒屋からたこ焼き屋まで

次の日も暑かった。入口のドアを開け、席につく。このドアは最近、保豊さんがDIYしたのだそうだ。以前は開放しっぱなしの空間だったため、常連のお客さんから「こんなドアあったっけ?」とよく言われるんだと楽しそうに語る。

さ

<カフェのショップカード>

45年ほど前、この建物は居酒屋として使われていた。

そう遠くない海沿いに大きな製鉄所が立地していて最盛期には1日3万人もの人が出入りしていた。夜になると従業員たちが街に繰り出す。そんなお客さんを目的に現在のカフェ周辺は飲み屋街になる。
独身者が多く、独身寮が近かったこともお客さんが多かった要因の1つだろう。

いまは小さな住宅団地のようになっているが、店の向かいには映画館もありこの辺りには全部で2軒もの映画館があった。
それだけの規模のにぎわいがあったということだ。

公害も大きかった。煤煙がたくさん飛んできて洗濯物が黒くなる。
だがその代わりの地元貢献で都市ガスの敷設が和歌山市の中で一番早かったし50年以上前に3階建ての鉄筋コンクリートの小学校が建てられた。工場地帯の周辺には緑地も整備された。
その時代の小学校にプールがあるというのはとても贅沢なことだった。

「すみきんさん」の影響が大きかった地域。

この店で昔飲み屋さんをしていたことを知る人はもう本当の高齢者しかいない。そのあとはレストランや喫茶店やお好み屋さんが営業していたそうだ。

目の前で映画館を営業していた人は今、隣でビデオレンタルショップを営業している。

い

<店舗の外観。複数の店舗が連なった形をしている>

喫茶店の色

「若い人は、なかなかこういう喫茶店は利用しないけど、和歌山大学の子が住んでるワンルームが近くに多いからたまに学生さんが来るね。70-80代の人は喫茶店世代。生活の中に喫茶店があった。その年代の人が懐かしいなって店に入ってくる。お年寄りの方が入ってくると、(店が)明るい!と言われるんですよ」。

古くから営業している喫茶店の内装や全体的な色は重厚感のあるものが多いが、この店はまだ日が浅いこともあって清潔感があり、新しい。

明るい店の一角には真由美さんがつくる数種類のシフォンケーキが並ぶ。
バニラ、バナナ、ごま、すいか、いちごミルク。他のお店ではなかなか見ないような珍しいシフォンケーキ。季節によって味のバリエーションが変わる。クッキーを販売しているときもあるそうだ。

私は誘惑に耐え切れず、宿泊先の方へのお土産にいちごミルク味のケーキを買った。

シフォンケーキを陳列する棚も保豊さんのDIY。手づくりの店だ。

き

く

<手づくりのショーケースに並ぶケーキとクッキー>

お客さん

店舗は小さいながらも人気店はお客さんが絶えない。店主のおふたりからお話を聞く間も個性豊かなお客さんと同席したので紹介します。

①夏を感じるお客さん

バケットハットとハーフパンツをおそろいにした少年とそのお父さんがドアを開けた。聞くと、プールの帰りだと言う。冷たいプールで遊びつくしたにも関わらず、あまりの暑さに店先のかき氷の文字を見て涼みに来たそうだ。昨日の私と同じ。

2人は時々「プール楽しかった?」などという店主夫婦との話を挟みながら1つのかき氷を平らげて店を後にした。

②青春を持ち帰るお客さん

電話が鳴った。利津子さんが受話器を取り、少し慌て始める。たこ焼きの大量注文のようだ。15個のたこ焼きを3セット、しかも30分後に受け取りに来るという。でも調味液が足りない。今から追加でつくらなくては。保豊さんはカシャカシャとボウルをかき混ぜ始めた。

30分後、お店に1人の青年が来た。友達と食べるのだろうか。たこ焼きを受け取ると足早に帰っていった。

う

<たこ焼き屋ののれん。読み方はもちろん「オッサン」>

え

<たこ焼きの調理風景>

③行きつけができたお客さん

陽気なおじいさんが慣れた様子で扉を開ける。どうやら常連さんのようだ。

「初めて来たのは四月。散歩してたら見つけて、コーヒーの文字見てお店に入ったんよ。若い時から喫茶店やら食堂にはあまり好んで行ったことはなかったね。今、昼間にコーヒー飲みにくるってここしかないなあ。どこにも行くとこないし。喫茶店は多いんけれど、1人でいるのが嫌なんよね。友達がいてたらいいけど他の店では1人やから。単にコーヒー飲むだけやったら、誰も話せんからね」。

60歳に見えるくらい生き生きした85歳のおじいさんは15時半になってそろそろ帰ると席を立つ。


「いつも15時には、お風呂に入って16時には夜ご飯を食べる。17時くらいには寝るかな。朝は3時に起きるよ」。

今日は夜更かしするようだ。

け

<近所に住む常連のおじいちゃん>

編集後記

偶然に出会った和歌山の日常。気取らない喫茶店の雰囲気とおふたりとの会話に引き込まれる。どんな人でも思いをを引き出してみるとドラマが隠れているしいつまでも散歩の途中で出くわすようなお店であり続けてほしい。

【お店情報】

「たこ焼03」
営業時間 朝11時頃~18時頃
「cafe blue wood」
営業時間 朝8時頃~16時頃

和歌山県和歌山市松江北1丁目3-41


【筆者紹介】

プロフィール_村山さん

第一回の記事を執筆した菊村夏水さんに撮影してもらった>

村山佑月

2002年生まれ。山形県出身。宇都宮大学工学部在学中。大学1年次に栃木県全市町村の地域活動を訪ね歩いた経験から地域活動に興味を持つ。ディープな地元をガイドするために2022年4月から休学して自ら山形県内を巡る。好きなものは味噌ラーメンと温泉。

Instagram:@aiueo_mrym
Twitter:@mrym_yutsuki

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