往診・在宅医療現場におけるヒドロキシジン(アタラックスP)による対応例 エビデンスレベルは高くないが往診医として伝えたい医療実践(2)
今日は実際対応にヒドロキシジン(アタラックスP)を使った対応ケースを紹介したいと思います。
こんな風にこの薬を使えるのか、あるいは往診でこんなことができるのか
といったことを実際の現場の例を通じてご紹介できればと思います。
Case1 初診の患者さん 不穏、救急搬送拒否
87歳女性 普段近所の他院で高血圧治療。認知症は軽度あり。
当診療所は初診の方。数日前から食事できず、動くのがしんどそう。
かかりつけの近医で血液検査。貧血など指摘されて高次医療機関に紹介。
4日前に受診するも玄関で嫌がって受診できず。
昨日、ベッドから動けず失禁。救急車を要請。
救急のストレッチャーに乗ったところで不穏となり、拒否が強くて搬送できず。
本日、ベッド上で動けない。食事も水分も摂れないとして当診療所に往診依頼。
訪問時呼びかけに返事はあり、往診にきたことは辛うじて理解。
バイタルサインは測定させてくれる。血圧80/40 脈拍100 SpO2 98% 呼吸回数22回 体温35.4度
眼瞼結膜にて貧血著明。心雑音:SM3/6 喘鳴が体を動かすとあり。
貧血が強いため、原因精査、輸血も必要と判断。病院受診を勧めるが本人は強く拒否。
高次医療機関に受け入れ要請、救急車要請。
ヒドロキシジン(アタラックス-P)25mgを筋注。
うとうとしたところで救急搬送。
その後、救急搬送して高次医療機関で輸血。原因:多発性骨髄腫と判明。
ポイント;当診療所は初めて。病歴など十分に分かっていない。
高齢。不穏あり。身体状態は良くない。呼吸循環動態は良くない。
点滴ルートは確保困難
筋肉注射でできるヒドロキシジンの使用
Case2 心不全、不整脈の胸苦への対応
78歳の男性 喉頭癌で喉頭の全摘出を受けている 喉頭癌の方は一旦治療終了になっている。気管切開を置いたままになっていると いう状態の方。
2か月ぐらい前に紹介があって自宅に訪問診療することになった。
気管切開をしていて吸入して痰を吸引器でとっているのと逆流性食道炎で治療を受けていましたが、1か月前に肺炎を起こして入院してから体が弱り、自宅から通院するのが困難。
私が訪問するようになってから何度か胸が苦しいと訴えがあった。その際には原因がなかなかわからなかったが、2週間目に発作性の心房細動 HR130程度を検出。
その際は高次医療機関に救急搬送して心不全を起こしているということで入院になった。
βブロッカーとCa拮抗薬の投与を受けて洞調律となっており、退院後ある程度落ち着いていた。
帰宅した日曜日の夕方になり、この方が 胸が苦しいので往診してほしいという依頼があり。往診にて、脈拍が100から120ぐらいの 心房細動が再び起こっており、血圧は90/50mmHg、Spo2が95%、呼吸回数18回と いう状態で。
胸が苦しいと、 何とかしてほしいという訴え。前に入院した基幹病院の受診というものも検討したが、日曜日で循環器外来はしていない。その基幹病院に連絡を取ったところ、 診察することはできるけれども、今日は入院の病床がないので入院できませんとのこと。本人に聞くと、行きたくないと いう状況。
行けない、行ってくれない、行っても入院できない 往診でよくある状況
心不全の評価:浮腫についてはいつもよりやや増強傾向。
胸水:この元々右の胸水が少しあるが、 それはエコーで評価する限り増えてはいない。高次医療機関で前回入院した時の、情報提供からは冠動脈の方は悪くなさそうで、EF(Ejection Fraction)は保たれているという報告だった。
ここでヒドロキシジン投与することに。アタラックスP25mgを筋注。投与して15分後ぐらいに、 またまた精神的に落ち着いたせいなのか、心電図を再検すると脈が洞調律に戻り、楽になったということで 、往診現場から引き上げた、翌日から2日ほど元々処方されていた利尿剤を追加で投与しまして、改善した。
ポイント:心不全があって心房細動細動が起きていると。EFは保たれている、受け入れ先の医療機関が入院できないといったケースに対し、
ヒドロキシジンを投与することによって不安というのを落ち着かせ、心房細動を洞調律に直す、そして極度の不安を取ることで対処できたといった形の症例。
Case3 末期がん患者の苦痛、錯乱に対する対処
3例目の症例 末期癌患者、胆嚢原発神経内分泌腫瘍という少し稀な病気の方。発症から2年間は化学療法が効果があったが、徐々に効かなくなって、大学病院にてbest supportive careに移行しましょうという説明を受けて自宅療養に変更していた。
数日前から少しずつ黄疸が出てきて、それから肝臓転移が進展して、腹水が出現。
ある夜中、お腹が張ってしょうがない、患者さんが錯乱しているような状態なので往診してほしいという家族からの依頼で往診。
訪問時 血圧 90/60mmHg、脈拍は50、SpO2は、酸素なしで96%
携帯型エコーでは、やや腹水が増加している。
患者さんは、眉間に皺を寄せて、もうとにかくお腹が張って苦しいと、もう早く死んでしまいたいという。
よく聞くと、腹部に痛みがあるとわかる。腹が張った痛み、なんとも言えない痛みがあると
麻薬であるフェンタニルテープ1mgを貼付。それと同時に、このヒドロキシジンアタラックスP25mgを筋肉注射。
その晩は久しぶりによく眠れたと。その後、フェンタニルテープを軸にし、疼痛管理をしていくことによって、自宅で療養を続けて、最後まで自宅でお看取りすることができた。
ポイント:末期のがんの患者さんの精神的不安定。原因に痛みがある。バイタルサインは血圧低めで循環抑制は避けたい
夜中であり、点滴の管理をするのは困難。
こうしたけケースにヒドロキシジンの筋肉注射は有用。
また、これを一時的に急場の対応として使いつつ、オピオイドを導入、緩和ケアを今後も進めていくことができた。
3つの症例に共通するポイント:比較的高齢の患者さん、基礎疾患が結構シビアなものがある。
呼吸循環動態。特に血圧が低い。呼吸循環動態にあまり影響を及ぼしたくないという状況設定。
不安が強く、これが他の症状にも影響を及ぼしていると推定される。
こういった症例にヒドロキシジン、アタラックスPを使用してうまく対応できたという例についてご紹介させていただきました。
往診現場の状況について、アタラックスPの使用方法について実感を持っていただければ幸いです。
また、稿を改めて少し違った症例タイプについてご説明したいと思います。