「子どもの歴史社会学」ゼミでできたこと
はじめに
今年度は大学教員として就職してから初めて、非常勤講師のお仕事を頂きました。
このお仕事は今年限り(サバティカルの代講)のため、せっかくなので記録をつけておきます。
ゼミのテーマは「子ども・若者と教育の社会学」。
私は、これまで教職科目の担当ばかりで、教育社会学や社会学の教育経験は(調査実習のTAなどを除くと)ほぼありませんでした。そして専門分野の文献講読をできるような演習も担当することがなかったため、授業準備をするのはとても面白く、刺激的でした。
明治学院大学社会学部社会学科での演習(3年生のゼミ、受講生15名)では、春学期で文献講読、夏期休暇に集中ゼミとヒアリング実習に取り組んできました。
以下は春学期と集中ゼミに読んだ文献と、候補になっていた文献(残念ながら時間の都合で落選)の記録です。
1 導入――「ヤングケアラー」問題を切り口に
まずは導入。「ヤングケアラー」という現代的問題を切り口として、近代以降、戦前・戦後・現在までの子ども観の歴史を概観することに挑戦しましたが、文献が難しくて大苦戦…。
私が「ここってつまりどういうことですか?」などと学生に質問しながら解説していったところ全然終わらず(90分×2回で終えるはずでしたが)、結局90分×3回分使ってようやく読み切ることができました。
2 日本における子どもの誕生
子ども観の歴史を語る上では「定番」文献。江戸後期(近代以前)から始まるため、明治期(近代以降)の変容をとらえやすい良書です。
文献講読では文献報告担当がレジュメを切りましたが(ヤングケアラー論文は練習として全員がレジュメを切りました)、他の受講者も事前にLMS(manaba)の掲示板にコメント・論点(各1点以上)を書き込んでから臨みます。
次回報告担当の学生に司会を任せることにし、私は解説が必要な箇所でところどころ口を挟む形で進行しました。
議論はどうなるかなと思って見ていたところ、初回の司会担当者たちが疑問点・論点(報告担当者が提示したもの+掲示板からいくつか選ぶ)について「まず隣の人と3分間話し合ってみてください」→端から順番に発表させる、というやり方で進め、以降これが定着しました。
このやり方については一長一短あると思いますが、学生たちの春学期の感想などを見ていると話しやすくて概ね好評だったようです。
一方で意見の衝突や対立が起こりにくく、キャッチボールにならない(打ちっぱなしを各自やっている)感があるのが難しいなあと感じているところです。
3 子ども観の多様性
『多様な子どもの近代』を講読するには、アリエス『〈子供〉の誕生』の概要がわかっていないと無理だ…!ということに途中で気づき、急遽『〈子供〉の誕生』もかなり駆け足で解説してから臨みました。
大苦戦ふたたび。ここはかなり駆け足で、かつ文献も難しかったので、学生たちは大変だったと思います(反省しています)。
泣く泣く諦めた文献
いくつか入れられなかった文献があるのでここで供養させてください。
戦前期の子ども観の錯綜、戦後期の子どもを取り巻くまなざしについて理解できる文献ですが、難しい(大事!)+時間の都合で割愛しました。
4 戦後日本社会と子ども
戦後~現在までの子どもや教育に関わる社会・制度の動きを概観できる良書です。データも豊富かつ平易、でも確認すべき大事な論点をたくさん盛り込んでくれています。
5 教育/福祉と子ども
夏季休暇のヒアリング実習では、近年拡大が著しい自治体における「子どもの権利に関する条例」制定、子どもの権利擁護機関の設置、子どもアドボカシーの取り組みついて東京都特別区の行政担当者にインタビューを行いました。
集中ゼミではヒアリングの準備として、事前送付していた質問4点について報告担当者が下調べを行い、「想定問答集」を作成しました。
「想定問答集」をもとに履修者で協議し、更に掘り下げる質問をまとめ、ヒアリングに臨みました。当日は学生から更に質問も出て、充実したヒアリングになったと思います。
6 おわりに
「子ども」関連のテーマは規範的・実践的領域であるがゆえに、社会学的な観点からみることは学生にとってかなり難しいのだなと感じています。
「子どものために」「子どもの権利の保障」という言葉や実践を、「もっとよくするにはどうすればいいか」という着地点ではなく、どう社会学的にとらえ直すことができるか。どう社会学的な問いを持つことができるか。毎週苦戦していて、毎週反省ばかりでしたが、少しでもその糸口につながる議論ができればいいなあと考える日々でした。
秋学期はいよいよゼミ論の準備に入ります。学生たちの問いを聞けるのが楽しみです(その前にレポート出してね!)。