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そうだ、象使いになろう

タイで触れた象があまりにも愛らしくて、もっと触れ合える場所とかないのかなあと調べていた時に目に留まった、「象使いの免許取得」の文字。

あ、これやん、と思った。絶対に取らないといけない気がした。

決めた。私、象使いになる。

ほんまに意味わからんからやめてほしい、という母の言葉を聞き流し、宿と飛行機だけを予約し1人でラオスへと向かった。


タイのバンコクで乗り継ぎ、ルアンパバーン空港へ。小さくて田舎の空港感たっぷり。

小型機のみ離着陸している空港。
だだっ広い中歩いてイミグレーションまで向かう。


荷物を受け取りタクシー乗り場へ向かう。
ドライバーによる私の争奪戦が行われるものだとばかり思っていたが、客引きがなく拍子抜けした。

ここは私の知ってる東南アジアとは一味違いそう。のんびりしてるなら最高。

乗り合いタクシーの運転手さんにこちら側から声をかけ、行き先を伝える。


運転も私の知ってる東南アジアとは全く違っていた。寝れそうなくらい、ゆったりとしている。

もし寝たら気づいた時には死んでるんちゃうかと思うような運転を散々体験してきた私は、タクシーがこんなに安全に運転してくれる国ってどんなところだろうとワクワクしていた。


宿に到着するなり、部屋に荷物を置くより先にオーナーさんに象使いの資格取得ツアーについて聞く。

ツアー会社の人にその場で連絡をしてもらい、翌日の予約を確保。

よし、これで私は明日、象使いになれる。

旅の目的が無事果たせそうになって一安心したものの、さあここからどう過ごそう。

私はただここに象使いになるために来た。正直ラオスがどんな国なのかもまったく知らない。


そんなこんなであてもなくルアンパバーンの町を歩き始めたラオス1日目。

素敵なカフェを見つけて休憩がてらおいしいラオスコーヒーを飲み、丘からの景色をゆっくり眺め、メコン川沿いでローカルビールを飲みながらラオス料理を堪能し、ナイトマーケットで買い物。

トゥクトゥクが可愛い。
ラオスはコーヒーも有名。
ピピラの丘からの景色。
ローカルビールのビアラオ。
ナイトマーケット。雑貨もたくさんあって、フルーツジュースもおいしかった。


象使いのためだけに下調べゼロで来た無計画女、しっかり初日から楽しんだ。

町も人も生き急いでいる感じが全然しなくて穏やか。ナイトマーケットですら客引きがない。この国の、時間がゆっくり流れているのが感じられるところがすごく好きになった。

日が沈むのを見ながら晩ご飯。



さあ2日目、いよいよ私は象使いになる。

象使いツアーの乗り合いバンに乗り込み、象の住む村へと向かう。
ラオスの穏やかなドライバーさんの運転でも揺れまくるような、ボッコボコの道を進むこと40分。

ずらーっと象が並んでいる。可愛い。

現地のマホートと呼ばれる国家資格を持った象使いの人たちに指導を受けながら、象に乗らせてもらう。

まずは乗った状態に慣れること。
乗ったままサトウキビをあげると、もっともっと!と、何度も鼻をこちらに向けてくる。

その様子もとにかく愛らしくて、嗅いだことのない強烈なにおいの鼻息(というより、勢いが強すぎてほぼ風) が確実に象の鼻の穴から放たれていたものの、こんなもん気にせえへんぞと心に決めて象とふれあい続けた。

象の背中の荷台のような場所から降りて、象の背中に直乗りし、1時間ほど歩いてもらう。

森の中、草むら、メコン川のほとり。

誰とも話さず、自然いっぱいの景色の中、象に揺られるのはすごく心地よかった。


ただ、象の毛ってすごく太い。

前日にテンションが上がり現地で購入した、いかにもなテロテロ柄パンツを履いていたので、象の毛はテロテロ生地を貫通し私の足に刺さり続けていた。

途中でものすごいスコールが降ったが、ツアーはそのまま決行。
バチバチのスコールに打たれながら必死に象にしがみつき、象の足がぬかるみで滑りかけている様子を上から見ながら、お願い転けないで、耐えて、と初対面の象に命を預け、なんとか落ちることなく帰還。

続いて座学の時間。全身びっしょびしょのまま、象に指示を出す際の言葉をラオス語で学ぶ。

Qua(右に行って)、Sai(左に行って)、Pai(進んで)、How(止まって) など基本的なものから、Boom(水をかけて) というような、いつ使うねんという指示までをマホートから教わる。

ラオスの象使いは鞭などを使わず象に直接言葉で伝えているというところにすごく魅力を感じていたので、私もちゃんと覚えよう!と意気込み、ずぶ濡れの中で真面目に座学を受け、学んだ全ての指示を頭に叩き込んだ。

ここで休憩を挟む。お腹も満たされ、昼食の間にスコールは止み、全身びしょ濡れだった服も乾いたところで午後の部へ。

開始早々象に乗ったまま、メコン川へ突入。

こちらが修行の現場です。


水浴びを開始した象達のテンションが上がりすぎて、習った指示など1ミリも伝わらない。
何を言っても聞こえている様子は全くなく、私を乗せたまま水遊び(ほぼ暴走)を楽しむ象。

マホートがBoom!(水をかけて)と言ったらその指示だけはしっかり聞いていた。そんなお笑いしらんでええねん。

いつ使うねんと思った指示、こんな使われ方してたんかよと思いながら、とにかくメコン川に振り落とされないことに必死で象にしがみつく。

落ちそう、やばい、と思って足も使って力を入れた時、

バリバリバリ

という音がした。

これはもう見なくても分かる。
テロテロズボンの股下部分、思いっきり裂けた。

暴れ続ける象にしがみつきながら恐る恐るズボンに触れてみる。

それはそれはもう、信じられないくらいにパッカーンと破れていた。

さあどうしよう。
このままだと水から上がった途端に異国で公然わいせつ罪。

上半身は水着の上にゆるっとしたタンクトップを着ていた。とっさにタンクトップの腕の部分だけ抜いて、そのままお腹の下まで下ろす。

上半身ビキニ、下半身は腰になにかを巻いていて、その下にテロテロ柄パンツ。

ヒッピーなり損ない女のような見た目になったものの、とりあえず裂けた箇所を隠すことには成功。

振り落とされないように象にしがみつきながら、異国で腹を晒すかパンツを晒すかの2択に迫られるというミッションにも耐え抜き、なんとか象を陸へ誘導することもできた。

最後は指示を出しながら、象に所定の場所まで行ってもらう。行くべき方向に曲がってくれたかと思いきや、そのまま林に突っ込んで行ったりと、最後の最後まで指示が伝わっているのかはまったくもって不明なままツアーは終了した。

だけど、機械的にただ指示を聞く象の様子を体験したのではなく、象の生命力が直にたくさん感じられた時間を過ごすことができて嬉しかった。


無事に証明書も発行され、旅は大満足で終了。


このラオスの旅では象について学んだだけではなく、人生についてもかなりのお勉強になった出来事があった。

この時同じ象使いツアーに参加していたうちの1人と、私は後々結婚した。

ツアー中は象と1対1で向き合っていたので、参加者とは昼食の時間くらいしか話すことはなかったが、一緒に象使いになったという共通点が大きかったのだろう。

トントントーンという感じで、気がついたら結婚していた。


トーンと結婚して、どーーーんと離婚した。

人生ノリと勢いだと信じてきたが、おそらくある程度の節度も大事。

始まりがイレギュラーだとその先も、きっとそれなりに意味のわからないことが起き続ける覚悟が必要。

ラオスにて象使いの免許だけでなく、波瀾万丈な人生と、ヘビーな学びを得たというお話でした。



私の息子には父親の記憶がないようなので、将来きっと聞かれる日が来ると思う。
どこで出会ったのかなんぞ言われた時にはどうするべきでしょうか。

事実を話して愛する息子に頭おかしいと思われるのか、しれっとふわっとカモフラージュするのか、とっても悩むところ。

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