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BPSモデルを実践するとbioがおろそかになるか?

「BPSモデルを重視するとbioの部分が疎かになり、診断が遅れるのではないか?」

という問題提起をいただきました。

実際、私自身も家庭医療のフレームワークを学ぶ中で、「優しいヤブ医者」にならないかと悩んだことがありました。しかし、現在は少し異なる考えを持っています。

BPSモデルはバイオを補完する


BPSモデルは「バイオ」と対立するものではなく、「診療の視点を広げる」ことを目的としています。確かに、心理社会的因子を重視しすぎるあまり、「仕事が忙しいとのことでストレスが原因でしょう」と安易に結論づけてしまうと、早期閉鎖につながる可能性はあります。

しかし、心理社会的な要素が診断の手がかりになることも少なくありません。 例えば、原因不明の発熱で入院し、血液培養や造影CTをしても診断がつかなかった症例で、「畑仕事をしていた」という生活背景を聴取したことがきっかけで、丹念に身体診察を行い、刺し口を発見し、日本紅斑熱と診断に至ったケースを経験しました。このように、心理社会的要因を考慮することで、むしろ診断が早まる場合もあります。

一方、機能性疾患の診断においても、BPSモデルの視点は重要です。例えば、機能性ディスペプシアや心因性痙攣は「器質的疾患を除外しないと診断できない」とされてきましたが、実際には典型的なプレゼンテーションが存在します。心理社会的因子を深く考察することで、むしろ早期診断につながることもあるのです。(國松淳和先生の『仮病の見抜き方』はこの点について非常に示唆に富んだ書籍です。)


BPSモデルは診断の精度を高めるツールとなりうる


BPSモデルの本質は、「医療には心理社会的な要素も関与しており、バイオだけで語り尽くせない側面がある」という事実を言語化している点にあります。「BPSモデル」という名称からも分かるように、B(バイオ)、P(心理)、S(社会)の順に考えるため、バイオを軽視することは本意ではありません。

BPSモデルは、診療のフレームワーク(切り口)の一つとして捉えるとよいでしょう。例えるなら「レンズ」のようなものです。バイオの視点だけで見ていた症例を一歩引いてBPSモデルのレンズで見ることで、心理社会的な問題が浮かび上がることがあります。しかし、それはバイオの視点をぼやかすものではなく、むしろ補強するためのものです。 適切な場面でバイオの視点とBPSの視点を切り替えることで、より正確な診断が可能になります。この視点を意識することで、BPSモデルは診断の精度を高め、医療の質を向上させるツールとして有用であると考えます。

#BPSモデル
#家庭医療学

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