『GIKYOKU! Vol.2』収録作品のこと
収録作品
全9作品
(生徒創作5作品・顧問創作2作品・生徒顧問合作2作品)
◎空に溶けて(生徒創作/顧問潤色)2015年
丸山香有菜/五ノ井幹也
○裁判同好会(顧問創作)2017年
光武太郎
◎明日、また(生徒創作)2018年
神野萌花/西宮今津高校演劇部
○インザハウス(顧問創作)2018年
福田成樹
◇リセマ達(生徒顧問合作)2022年
いぐりんとその仲間達
◎信号反応(生徒創作)2023年
中川理彩
◎滝沢さんと会長くん(生徒創作)2023年
ヒバリズム
◎ふとんがふっとんだ!(生徒創作)2023年
福原瑚都/安東湖春
◇653-0824(生徒顧問合作)2023年
(有)山ヤ百貨店
各作品についての個人的な想い
創作劇の文化があるのが兵庫県です。
コンクールはもちろんのこと、それ以外の公演でも、創作劇として台本を書くことは珍しくありません。コンクールだから良い作品とも限りませんし、コンクールじゃないから良くない作品とも限りません。
掲載作品について、記していきます。
空に溶けて
眩しいのはあの子なのか空なのか。ある夏の日を舞台に、高校生女子を描く。
「どうしても知りたいの。」
第2号ではコンクール(県大会)以外の作品も収録しようと思っていました。伊丹市のAI・HALLで毎年3月末に行われる「アイフェス!!(伊丹市中高演劇フェスティバル)」はとてもレベルが高く、コンクールを凌ぐ作品も現れます。
『空に溶けて』は、高校生女子たちの物語。男子は知らない世界。高校演劇は女性比率が高く、女子高生がメインとなる作品は少なくありません。それでも、この作品は【特別】に感じました。何かを劇的に立ち上げるワケでもなく、淡々とリアルを描く。「女子の世界」という秘密を垣間見る気分でした。
裁判同好会
カンニングをしたのか、していないのか。裁判が進む中、それぞれの思いが少しずつ明らかに。有罪か? 無罪か? 果たして真実は何?
光武先生は2015年の『白バラ女学院』で彗星の如く現れ、同作品でいきなり春の全国大会出場(近畿大会2位)を果たしました。その後も、楽しく面白い作品を次々発表しています。
『裁判同好会』もまた、近畿大会まで進んだ作品です。
実は今回、別の作品を収録したかったのですが、他の収録作品と若干被る気がしてこちらにしました。
裁判を通じて、登場人物たちそれぞれの真実が明らかになってきます。
明日、また
部室で発見した古い日誌。それは、阪神淡路大震災翌年の合唱部のものだった。1996年の合唱部で起こった出来事とは?
惜しくも第1号に掲載が間に合わなかった作品のひとつです。
意外にも思われるかもしれませんが、兵庫県では(私の観る限りの範囲で)阪神淡路大震災に触れた作品はあまりありません。もしかすると震災の年にはたくさんあったのかもしれません。唯一、この作品の舞台になっている1996年に神戸高校が演じた『破稿 銀河鉄道の夜』は有名ですね。今でも全国各地で上演があるようです。
『明日、また』は、2018年の生徒創作作品。当然、書き手は阪神淡路大震災を経験していません。聞くところによると「生徒たちからやりたい」ということだったそう。
自分たちの街でかつて起こったこと。親たちの世代が経験したこと。新たな視点を見せられた気がしました。
県大会では、創作脚本吉山賞を受賞しています。
インザハウス
教育実習のために帰ってきたエリ。ところが家には見知らぬアヤさんが家族とともに暮らしていた。帰ってきた理由。家族が暮らす理由。そして、明日は……?
衝撃的な作品でした。その年の県大会で最も突き抜けていて、且つ魅せられて……。エリを演じた女優のためにあったような作品でした。
県大会では評価されませんでしたが、自分たちのやりたいことをやりきって、プロの劇団にも負けない作品を上演した、そんな作品でした(私の中では最優秀賞だったのです)。
福田先生はプロの劇作家も認める書き手であり、数々の名作を送り出しています。
『インザハウス』も、既に『季刊 高校演劇』へ収録されている作品ですが、是非ご一読ください。
リセマ達
これが3回目の球技大会!? 同じ日の繰り返しに気づいたサツキとユウタは、次の日に進めるべく奮闘する。そんな役目にも納得していたころ、事件が——!!
ゲームでリセットをマラソンすることを「リセマラ」と言うそうです。
この作品が「新しい」と個人的に感じたのは、やはり犯人でした。簡単ではない作品ですが、全員が演じきっていたのが印象的です。
同じ日を繰り返すこと。観る方としてはとても楽しく、「やってみたい」と思わせる作品ですが、実は、演じるのは難しい作品でもあります。
2023年の全国大会出場作品です。
信号反応
18歳、成人。18歳の誕生日を迎えた阿部は今日も化学同好会の部室へ。今日から大人? 成人と大人は違う?
「先輩の好きな化学反応、なんですか?」
こちらも「アイフェス!!」の上演作です。
日本で成人年齢が18歳に引き下げられたのは、2022年4月1日から。もちろん、高校生はときに「大人と言われ」ときに「子どもと扱われ」、大人の勝手に振り回される年代です。そういう高校演劇も多いことでしょう。でも、“今”しか書き得なかった作品だと思います。
信号反応とは何なのか? そして、大人とどう結びついてくるのか? プロの演劇人たちも「あっ!」と感じていたように思います。
滝沢さんと会長くん
恋愛禁止を徹底する生徒会。そこへ会長から呼び出された滝沢さんが現れる。なぜか会長が滝沢さんの恋愛を助けることになり……?
学校という「場」を使って、おもしろおかしく遊んだ作品です。学校という本当のことに、校則という大嘘がひとつ。その仕掛けも巧みで、二人が知らぬ間に変化していたと観客に気づかせる演出。もちろん、それは台本上にしっかり記されていました。
上演もそうですが、稽古にも使える楽しい台本です。
ふとんがふっとんだ!
「ほんまに台湾有事って起こるんですか?」
宝塚市の山の上の高校にある、演劇部倉庫コンテナを舞台に、劇中劇で描かれる台湾有事後の世界と高校生。
少し前まで日本では、「戦争というのは遠い昔(もしくは、遠い世界)のこと」だったように思います。仮に戦争を扱ったとしても、太平洋戦争が大半でした。
この作品には、書かれている内容以上に、「戦争が日常に迫っている(と感じている)」ことに怖さを感じました。
653-0824
神戸市で最小の面積、最大の人口密度の長田区。この小さな世界で、女子高生たちが見つめる今。伝統のファッションショーの幕は上げられる?
いま、この作品を読みたい人が多いんじゃないか? そう思って掲載しました。
㈲山ヤ百貨店さんは、いつも身近にあることを題材にしています。そのことを大切にしているように感じています。自分たちだから出来る台本、自分たちだから出来る演劇。それは大切なことではないでしょうか。
2024年の春の全国大会出場作品です。
上演の様子は、下記URLで動画配信されています。
ご購入について
ASOBU KAPPANのSTORESにて通信販売いたします。
発売は9月8日(日)の予定です。
同日開催の「文学フリマ大阪12」にて対面販売いたします(以後の対面販売は未定です)。
なお、今回は予約数に応じて印刷部数を決定します。
気になっている方は、是非、ご予約いただけますと幸いです。
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