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ロングツーリングの記憶ー12 下北半島で感じたこと

文章でロングツーリングの心の風景を書く試み。

ある年の5月連休、神奈川を出発して、雪景色の北海道を走り続けた私は、へとへとになりながら、本州へ戻った。


この日走ったのは、下北半島。

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*   *   *


室蘭から青森へ向かう船のなかで目を覚ます。


つい2日ほど前、
八戸から苫小牧へ渡ったときとはかなり心の状態が違う。

苫小牧で船を下りて、
行けるところまで行こうと走り続けて
宗谷岬まで行き着いた。

室蘭から船に乗った私に
どこまで行けるだろう、
という漠然とした期待はすでにない。
あとは好きなだけ寄り道をして帰ろう、
という気持ちだ。


青森港で船をおりて
下北半島を目指して六ケ所村へ出ようと思う。
太平洋沿いから時計と反対周りに下北半島を一周だ。

北海道でとんでもない目に遭ったから
もうあれくらいのことでは動じないぞ、
という気持ちも少なからずある。


そう思って走るものの、
下北半島の付け根のあたり、国道394号を北へ向けて走っていると
どうにも人の気配が薄くて気持ちも湿っぽい。


何がまとわりついてくるわけでもないけれども
口をつぐんで俯き加減で淡々と距離を稼ぐ。

北海道でもこういう気持ちで走ることはなかった。
道の雰囲気なのか、土地の雰囲気なのか
それとも私との相性なのか、気持ちが上向きにならない。

こういうときは
実際よりもずいぶん長い距離を走った気がする。

下北半島の太平洋側、
国道394号から国道338号へ入って
恐山で一度エンジンを切った。

気分を変えようと思ってみたけれど
歩くところは恐山菩提寺。

菩提寺では風車が回っていて
「空回り」という言葉に形を与えたらこうなるだろうと思った。

どうにも気持ちが内側へ閉じるようで
違う時期にきた方がいい気がした。


さすがに疲れが溜まってきたのかな。
そうは言っても
相手がいないときは自分を相手に喋るしかない。

大間温泉で少しあったまろう。
地図を確認するとどうやら本州最北端の温泉のようで
ライダーはこういうのに弱いのだ。


大間の日帰り温泉には私ひとり。
世間のみんなはどこへ行ったのだろう。
湯船では
何も気にせず足を伸ばして目を閉じる。
こわばっていた肩、背中、足の筋肉が緩んでいく。
そうして今度はつま先から意識的に力を抜いて
気持ちも緩んでいく……。


何を求めて走っているのか。
道に引き返せと言われるまで。
冬季通行止こそあったけれども
結局行けなかったのは道東だった。
夕張から三笠へ出て旭川を抜けて宗谷岬まで。
そこまで行って「引き返せ」とは言われなかった。
それどころか「来たからには帰らなければ」。


帰る。どこへ。

そう自分に問うと
それまで手元にあったと思ったものが
するりと抜け落ちていくような気がする。
もともとなかったものをまるであったかのように
錯覚していただけなのかもしれない。

温泉に浸かって血の巡りがよくなっても
気持ちはいまひとつ晴れない。



国道338号を西へ向かって仏ヶ浦の方へ。
いつのまにか海から離れて
山道のワインディングに姿を変えた。
とうとう走れる道にきた、と思う。

ところが
仏ヶ浦を過ぎ、南へ続く国道338号は、佐井村の南で

「冬季通行止」


何かよそよそしいような、愛想のないような感じがした。
西側から来た私はそのまま直進して県道へ。

これもまたツーリングなんだな、と思った。



青森市内へ向かおうと思い
陸奥湾沿いを車の流れにのって
何も考えず走る。
国道279号線をなぞって南下していると
また湿っぽいような少し憂鬱な感じがしてくる。
陸奥湾に日が沈んでいく。


このあたりは
土地の境界線なのかもしれない、
と思った。






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