ロングツーリングの記憶−5 フェリーで北海道へ
文章でロングツーリングの心の風景を書く試み。ある年の5月連休、神奈川から計画も何もないままただ走って、八戸からフェリーに乗ることにしたのであった。
これまでの話はマガジンから読めます。
* * *
八戸に着いた。
一日は長かった。
苫小牧行きのフェリーに乗るバイクはたった2台。意外な感じがする。この時期に北海道に渡ろうと考えるのはかなりの物好きのようだ。
明日の天気予報は雨。船に乗り込み、リアバッグの整理をする。カッパは確かこのへんに‥‥あれ?
あ、あった。
こういうときはびっくりする。
広い船室は夏休みならいっぱいになるだろうか。もう一台のバイクの持ち主は、その格好ですぐにわかる。私はこういうときに知らないバイク乗りと話すのは苦手だ。元々そんなに社交的ではないし、ひとりで走っているという感覚からうまく出られないんだろう。
一日の道のりを振り返って時間を過ごす。
明るい間文字通り走りっぱなしだった。
自由だ、と言いながら行先を探しておろおろする。
なんとも個性的な自由があったものだ。
出発するときは、まさか船に乗るとは思っていなかった。進んでいるうちに走りたい道、行きたい場所が見つかってそれをめあてに適当に宿をとり、なんとなく走り続けるだろう、そういうことがぼんやりと頭にあった。
そうして高速道路を走っているうちに
言葉が浮かんできた。
道に引き返せと言われるところまで。
行けるところまで行ってみる、という平凡な物言いをひっくり返すと何か意味のあるような言い回しになった。地図を見てしっくり来なかったのは青森では足りないとどこかで思っていたからだ。
本屋で北海道の地図を買ったあと、行けなければ船はキャンセルだ、と思いながら、もっとも整備されている国道4号を走ってみたら引き返せとは言われなかった。まだ先へ行っていいのだ、と思った。
引き返せとは言わなかったけれど、明日の予報は雨。
4月末に平地で雪が降るとは聞かない。これまでわたしが聞かなかっただけで本当のところはわからない。とりあえず朝の目標だけは決めてあとは雲行き次第だ。
船は揺れない。
壁を背にして脇の荷物に寄りかかり
黒い海の上を滑る船を思い浮かべる。
船内は暖かく、人が少ないこともあって静かだ。
・・・もう寝てしまったおじさんのいびきを除いて。
膝を抱えてまどろんでいると
すぐ朝になるだろう。
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