ツーリングの断片 夕方の景色
路肩の広い国道で、縁石に腰掛けて休憩する。
5分ほどの時間でも、独り黙って休憩していると20分も30分も休憩しているように思えてくる。
影が長くなってきた。
高い空を見上げる。
こんな天気のいい日に走れたことに感謝する。
今まで走ってきた道を思い出して、ただ座っている。
そろそろ気温を気にする時間。
暗くなれば、路面も見づらい。
リラックスして行こう。
暗くなれば、無理は禁物。
背伸びをすると、
肩に余計な力がかかっていたことに気づく。
リアバッグから
シャツを取り出して重ね着する。
その上に重たいジャケットを。
右手から袖を通すことに決まっている。
プロテクターと肘の位置を合わせたあと、袖を絞る。
ファスナーを閉めてばたつきがないことを確認する。
髪が前にかからないようフルフェイスヘルメットをかぶって、
頭の上からぎゅっと押さえる。
あごの部分を親指で少し押し上げてやる。
視界良好。
あご紐を締めて。
そして、
いつものように右手、左手の順にグローブを嵌める。
左側、これから行く方向に目を遣り、ひとつ深呼吸をする。
右手でフロントブレーキを握って、左に切ったハンドルを戻し、腰でバイクを起こす。
右足でスタンドを払って、そのまま右足を振り上げてバイクにまたがる。
左手でキーをひねる。
給油までの距離を確認して、エンジンをかける。
エンジンは「さあ、早く行こう」と誘ってくる。
トリップメーターに目を落として気持ちを落ち着ける。
わたしはいつも、左胸の内ポケットに御守を入れていて
無事に帰れますように、と願っていた。
頭を上げて右のミラーを見る。道路の見え方はいつもどおり。
右側を振り返り、車が来ないかもう一度自分で確かめる。
左手を握ってクラッチを切り、左足でギアを1速に入れる。
左手のクラッチをつないで、そろそろと出発する。
秋の穏やかな風を受けて、ただ走る。