ロングツーリングの記憶ー8 音威子府にて
文章でロングツーリングの心の風景を書く試み。noteでGo To トラベルですわ、くほ。文章での旅は無料な上に、準備も要らないね。それになんと、noteでゴーツーだと、自粛しなくてええのである。
さて。
ある年の5月連休、神奈川を出発して八戸でフェリーに乗った私は、苫小牧から雪の残る北海道をどこまで行けるだろうと思いながら、北へ向かっていた。
これまでの話はマガジンから読めますのです。
* * *
名寄を過ぎて北へ走っていると
何台かの対向車がパッシングしてくる。
そろそろ引き返せという合図かもしれない。
季節には勝てないな、と思いながら走る。
たぶん目つきはギラギラとしていただろう。
そうしてしばらく走っていると、
パトカーが取締りをしていた。
あのパッシングは
普通に解釈すればよかったのだ。
とうとうここで引き返すのか、と思っていた私は、力が抜けたようになった。
身体に余計な力が入っていたことに
今さらながら気づいたのであった。
焦りが少しスピードを上げていたのかもしれない。
一人で走る、といっても
見知らぬ他人に助けられて成り立っているのか、と思った。
道路を通した人がいて
そこに積もった雪を除ける人がいて
初めて走ることができる。
そして、
ネズミ取りがいると教えてくれる人もいて。
音威子府のガソリンスタンドで給油。
ここで内地のライダーは珍しくはないだろう。
北海道は年末年始でさえ
タイヤにチェーンを巻いてツーリングする人がいる土地だ。
「どこから来たの」とか「どこまで行くの」という定型の挨拶は無い。
私はバイクから少し離れてこわばった背筋を伸ばしていた。
帽子をかぶったおじさんは給油をしながら
「稚内まで、40号だと何キロ、275号だと何キロ」
と何度も繰り返したとわかる言葉を大きな声で言った。
その声は私の頭の後ろに当たった。
私は振り向いて頷き
「275号にします」
と言った。
国道275号の方が距離が長かった。
オンロードバイクが南から来たら行く先は決まっている。
だからおじさんは挨拶代わりに
稚内までの距離を頭の後ろから投げ掛けてくれた。
バイク乗りなんて
個性を主張しているようで単純なものだ。
おじさんは「この先は凍ってるよ」と言わなかった。
国道40号と国道275号が分かれる交差点を、右へ。
このあとどこまで。
道に引き返せと言われるまで。
ここまで来ても
引き返せとは言われなかった。
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