ロングツーリングの記憶−6 曇天の苫小牧から
文章でロングツーリングの心の風景を書く試み。この世の中だから、文章でGo To トラベル。文章での旅なら割引どころか無料やね。
ある年の5月連休、神奈川から何も考えず、ただ地べたを北へ走りつづけ、八戸からフェリーに乗ったのであった。
これまでの話はマガジンから読めます。
* * *
次の朝。
フェリーで雑魚寝していたわたしは目を覚まし、外の様子をうかがう。
空は、灰色。
船から下りた。
5月連休の北海道。
首都圏の真冬ツーリング装備なら問題なく走れる。
念入りに準備をしたのはいいけれど、
気温の低さと雲の低さは、
さあ行こう、という気分にさせてくれない。
のろのろと出発する。
夏の朝ならば
勢いよく何十台ものバイクが
道の向こうへ消えていくんだろう。
今日は曇天の下、私ひとり。
もう一台のバイクは、カワサキZRX。
会釈とともに行ってしまった。
テレビでは朝から
「ゴールデンウィークの混雑は‥‥」などとやっているんだろうか。
新幹線は、空港は、行楽地は、と。
どこも混雑で
電車に乗るにも飛行機に乗るにも、お弁当を買うにも行列だ。
そして「連休を家族で楽しもうと思って」なんて
判で押したような細切れの映像をつないで
テレビの時間は過ぎるのだろう。
私は今、早朝の苫小牧。
目の前には一台の車もいない。
寒くて、静かだ。
どこまで行けるだろう、
という気持ちを抱えて走り出した。
夕張から国道452号を北へ走る。
側溝の脇まで雪が残っている。
アスファルトの中央線以外はモノトーンの世界。
空は相変わらず灰色で、山は白く、湖もアスファルトも黒い。
ところどころ、雪が解けて黒い土が覗いている。
そこにちらと見える
黄緑の新芽が気になってバイクを止める。
新芽は、ふきのとうだった。
モノトーンの足下には春が来ていた。
また走り出すと、対向車線に赤いCBR。
あっという間にすれ違う。
地元のライダーだろうか。
この道は凍ってない、という安心感と、
走り屋さんの道に来たぞ、という
自分の道に対する嗅覚の正しさで元気になる。
気分の晴れたわたしは
夢中で走りつづけて、忘れた頃に出てくる交差点を曲がる。
見覚えのある景色。
しばらく走ると祖父母の家がある。
目標地点はそこだ。
事前に連絡もせず行ったらどうなるだろう。
そう考えながら、
家路を急ぐような気分で橋を渡った。
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