ロングツーリングの記憶ー16 男鹿半島から横手まで
文章でロングツーリングの心の風景を書く試み。
ある年の5月連休、神奈川を出発して、宗谷岬を経て走り続けたわたしは、青森、秋田と走ってきたのでした。
・・・まだやるか。
このあたりが
「そんなに走るなんて、ちょっとアレですよね」
と言われるところである。
普通であれば飽き飽きして誰も付き合ってくれないのである。
それでもやるけどね。文章だし(そこ?)。
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・・・何を言うておるのだ、わたしは。
じゃ、今日も走りましょう。
* * *
男鹿半島を周り、夕暮れ時。
ガソリンスタンドのおじさんに
「どこまで行くの? 秋田?」と聞かれる。
「横手まで」と答えると
目を丸くしてびっくりされてしまった。
車だとそんなに遠いのか、と思う。
そして
半島の付け根から横手まで日が暮れてから走る。
気温は自然の法則にしたがって下がっていく。
いくら目を凝らしても気温の変化までは見えない。
海沿いから内陸へ進んでいくこともあって
気温の変化幅が大きい。
向かい風が首筋から滑り込んできて身体の芯を冷やす。
北海道ほど寒くはないだろうと侮った。
あんな思いをしたら
さすがにあれ以上のことはあるまい、と。
それに
あと100キロ程度なのだからまあいいだろう、と。
めんどくさがりの私はそう思ったのだ。
こういう心のほころびが積み重なると
危ない。
この寒さをもってそれを知る。
昼間はあんなに暖かかったのに。
平滝沼と大潟で春の空気をたくさん吸い込んだ私は
また冬へ逆戻りか。
気ままに走り続けて勝手な三寒四温を体感している。
三日寒くて四日暖かい。
いや、ちがう。
三時間は暖かくて、四時間は寒い。
なんだそれ。
寒暖の差は富士山でそこそこ慣れている
と思っていたのも甘かったか。
血が冷えていくような気になる。
・・・また始まった。
何のためにこんな思いをして走るのだろう。
来なくてもいい場所に来て。
寒い寒いと騒ぎ立てる。
これはどこが楽しいのか。
その神経がどうにもわからない。
バイクに乗らない人がそう思うのは当然のことだ。
今走っている私でもそう思うのだから。
それに
知らない場所を走っていることで気が張っている。
明日はどうしようか。
右の手首が痛いな。
山はまだ雪融け前だ。
寒いはずだ。
お腹は減らない。
何キロ走っただろう。
暗いな。
指先が冷たい。
お風呂に入ろう。
まだ走ろう。
100キロか。
意外とあるな。
ああ寒い。
いや、明日のルートは…
頭のなかでは
短い考えが
きれぎれに浮かんでは
繰り返す。
疲れている証拠だ。
ああ。
ゆっくり走ろうと思っていたのに。
これだからバイク乗りは。
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