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映像で文字、イラスト、心を動かしてみたいと思ったら……『動画でわかるAfter Effects教室』著者、サンゼさんへのインタビュー

通勤・通学中の電車内で。街角の大型ディスプレイで。そして自宅のテレビやパソコンで。私たちの生活に「映像」はもはや欠かせないものとなっています。「⁠見てるだけじゃなくて、自分でもこんなカッコいい映像を作れないかな……」と思ったことがある方も少なくないはず。

After Effectsは、そんな夢をかなえるツールの一つです。「⁠でもなんか難しそう……」と思われるのもごもっとも。そこで今回は、2021年10月に『一気にビギナー卒業! 動画でわかるAfter Effects教室』を刊行されたサンゼさんに、After Effectsの魅力や本に込めた思いについて教えていただきました。

サンゼ(和田光司)
映像編集とモーショングラフィックス制作の株式会社リヒトグラフ代表。2021年ACCクラフト賞をエディターとして受賞。130本以上のAfter Effects解説動画をYouTubeにUPし、チャンネル登録者数は2年で20000人を突破。その他、映像クリエイターの助け合いの場として「映像サークル ECHO」を立ち上げるなど、映像制作のノウハウを広く伝えるため精力的に活動中。趣味はサウナ。
 株式会社リヒトグラフ
 YouTubeチャンネル「サンゼの After Effects 教室
 映像サークル ECHO

聞き手:技術評論社書籍編集部 藤本広大


映像制作の「最良のパートナー」に――After Effectsの魅力

――最初に、After Effectsというソフトの魅力について簡単にお伺いしたいと思います。私のような映像の素人には、とても敷居が高そうな印象を受けるのですが……。

サンゼ:実際にやってみると、しくみ自体はとてもシンプルなソフトであることがわかるので、それほど気構えなくてもよいと思いますよ(笑⁠)⁠。すでにPhotoshopやIllustratorを使っている方であれば、同じAdobeのソフトなのでセカンドツールとしても使いやすいはずです。映像業界ではスタンダードのソフトになっていますし、手軽に機能を拡張できるのも強みです。文字やイラストが動く「モーショングラフィックス」はもちろん、「⁠実写映像の合成作業」や「VFX」といったかなり広い範囲をカバーすることができます。

――セカンドツールとして導入される方は、どのような方が多いのでしょうか?

サンゼ:ここ最近は特に、グラフィックデザイナーやイラストレーターとして仕事をしている方がAfter Effectsをはじめるパターンが増えてきていると感じます。アニメーション表現の需要は日に日に高まっているので、納品したデザインやイラストを「ちょっと動してみることはできませんか?」といった注文を受けることがあるそうです。こんな場合も、少しAfter Effectsの練習をすれば簡単にこたえることができる。これは、他のアニメーション作成ツールにはなかなかない魅力かもしれません。

――なるほど。新しいキャリアの可能性がありそうな気がしますね。

サンゼ:自分で動かす場合はもちろんですが、そうでない場合も、アニメーションのしくみを理解していることがキャリアの上で大きなアドバンテージになると考えています。というのも、After Effectsの知識が多少あれば、「⁠後工程で動かしやすいイラストや納品データの作り方」というのが見えてくるからです。それが自然にできるイラストレーターさんは、かなり重宝されますよ。つまり、イラストレーターという自分のキャリアの軸はずらさず、それを強化するためにAfter Effectsを取り入れるという活用の仕方もあるんです。

イラストを「作る人」と「動かす人」が協力して生まれる映像作品
モーショングラフィックス:ヌル1さん 
キャラクターイラスト:スミマミさん

――面白いですね。After Effectsを生かせるのは、実は映像編集者だけじゃないと。

サンゼ:アニメーションの需要は大きく増えています。だからもちろん、アニメーションの制作者として活躍する道もあります。でもそれだけじゃなく、彼らの「最良のパートナー」として自分の立ち位置を作っていくこともできる。そう考えると、After Effectsというソフトはやはり魅力的で、今、多くの人にとって学んでおく価値があるソフトではないかと思います。

「出汁のとり方」を伝えたい――「ビギナー卒業」の意味

――2021年に執筆いただいた『一気にビギナー卒業! 動画でわかるAfter Effects教室』(以下、本書)は、After Effectsにはじめて触れる人へ向けた一冊ですよね。執筆にあたって特に意識されたことなどはありますか。

サンゼ:一番意識したのは、「⁠動画」と「書籍」をしっかりとリンクさせるということです。これは作り手の側からすると、最も難しく、大変なところでした。動画の内容をそのままテキストに起こすだけだと、「⁠動画×書籍」の意味がない。だから、動画で見た方がわかりやすい部分と、テキストで読んだ方がわかりやすい部分を、はじめて学ぶ方の立場に立って棲み分けながら執筆と撮影を進めました。これは一つの項目ごとに、徹底的に行いましたね。

――この本について、印象に残っているAmazonのレビューがあります。「鯛のアクアパッツァ」をお手本通り作って終わりではなく、本書は「出汁のとり方」から解説している、と表現していたただいたものなのですが……。

サンゼ:見ました見ました。ありがたいですよね。これは動画内でも言っていることなのですが、マネをしてチュートリアル通りに作ること自体には、何の価値もないと思うんです。それを経て、自分のシゴトに生かすということがゴールのはずなので。だから本書では、「⁠つぶし」が効く知識を身に付けてほしくて、「⁠どうしてこうするのか」といった考え方の部分を意識的に掘り下げました。それが「出汁のとり方」にあたる部分なのかなと思います。

――本書は「一気にビギナー卒業!」とタイトルでうたっていますよね。映像編集者にとっての「ビギナー卒業」とはどういう状態だととらえていますか?

サンゼ:僕のなかでは、「⁠思った通りに思ったものが作れる状態」と定義しています。そのためには、一つの映像ができあがるまでの「しくみ」を理解している必要があります。「⁠なぜこの順番で作業を行うのか」「⁠現場ではどのような修正が起きるのか」といったところを徹底的に盛り込んだのは、その「しくみ」を早い段階でつかんでもらいたいからです。

――ビギナー向けの書籍で、「修正を踏まえたデータの作り方」にまで踏み込んでいるものは、なかなかなさそうですよね。

サンゼ:やっぱりそこは、僕の実務経験が投影されているのかなと。プロの現場でずっと揉まれてきたので(笑)。でも、本を読み終わったその先まで考えるのならば、「⁠映像を書き出した後にデータをどう管理するか」といった話は、ビギナーのうちにこそ押さえておきたい内容だと思います。わかりやすい派手さはないかもしれないですけど、こういった話は同業のプロの方の評判が良いですね。レビューを書いてくださった方にも響くものがあったとすれば、著者としてとても嬉しいです。

「作品」はクリエイターの名刺――「コミュニケーションツール」としての映像

――「本を読み終わったその先を考える」という話が出てきました。サンゼさんは作品を「作って終わり」にするのではなく、「誰かに見てもらう」経験も大切にされていますよね。

サンゼ:僕は「映像表現=コミュニケーションの道具」だと考えているんです。すべての映像は、自分以外の人に見てもらうために存在している、と言ってもいいんじゃないかと。だから、「⁠見た人がどう思うのか」というのは、作り手として最も意識すべき視点です。実際に、作ったものを誰かに見てもらうと、「⁠すごいね!」「⁠ここはイマイチだったかな」といった何かしらのリアクションやフィードバックが返ってきますよね。これを踏まえて次の作品を作っていくというのが、映像表現が上手になる一番の近道だと思うんです。これは、商業用の作品を作っている方だけでなく、趣味で制作している方にもあてはまるはずです。

――なるほど。ただ、いきなり誰かに見てもらうというのは、ビギナーの方にとってハードルが高い気もします。

サンゼ:そうですね。僕自身もキャリアをはじめたばかりのころ、気軽に作品を発信できる「場」がないことに苦しんだ経験があります。そこで本書では、作品に「#サンゼAE」を付けてX(Twitter)で発表してもらうことで、書籍で学んだ人同士が気軽に意見交換できる仕掛けを考えました。「⁠ECHO映像大会」も、こういった「場」を作りたいという思いで取り組んでいます。

――「ECHO映像大会」について、もう少し詳しく教えていただけますか?

サンゼ:「ECHO映像大会」は、映像クリエイターの「発表」と「交流」という2つの軸を大切にしている映像大会です。今は年2回開催していて、冬の大会は誰でも参加できます。「⁠ビギナー部門」があるので、大きな大会で発表するのは恥ずかしい方でも、気軽にチャレンジできる映像大会になってほしいと思っています。大会の様子はYouTubeチャンネルで生放送していて、必ず見てくれる人がいるので、成長のために必要な「リアクション」を確実に受けることができます。

2021年冬に開催された第4回映像大会のハイライト動画

――少し拝見しましたが、生き生きとした作品が集まっていて、とにかく「見ていて楽しい大会」だと思いました。

サンゼ:「交流」という側面も大切にしているので、大会の後にはZoomで発表者・視聴者の打ち上げを行っているのですが、これも盛り上がりますよ。クリエイターの一番の「名刺」は、作品なんだと感じます。面識のない人同士でも「この作品を作った〇〇です」と発言すると、「⁠あれよかったですよね!」「⁠どうやって作ったんですか?」という会話が自然に生まれる。同じアーカイブを共有しながら話すと「〇分〇秒のココはこうするって手もありそうですよね」というような、深いフィードバックだって交換できる。「⁠映像=コミュニケーションの道具」とお話ししましたけど、映像を「通じて」新たなつながりができるという側面も魅力だと思います。

「映像の面白さ」と真剣に向き合うこと――先輩としてのメッセージ

――最後に「映像制作、はじめてみようかな?」と迷っている方へ、先輩としてのメッセージをお願いできるでしょうか?

サンゼ:迷っている……「興味があるならやってみましょう!」というだけの話なんですけどね(笑⁠)⁠。うーん、思いの丈だけで喋ってもいいですか?

――そういうのが欲しいです(笑)。

サンゼ:ちまたで映像制作に興味を持ってくださる方が増えているのは嬉しいのですが、マネタイズを急ぐ方が多いことに、実は戸惑いも感じています。YouTubeのチャンネルでも、「⁠このチュートリアルをすれば案件がとれるようになりますか?」という趣旨の質問を受けたり……。このような内容に対しては、無責任に答えないようにしています。

――確かに、「需要が高まっている」をそのまま「すぐ稼げるようになる」と結び付ける流れを、最近よく見かける気がします。

サンゼ:もちろん「副業で稼ぎたい」といった事情も理解はできるのですが、それだけだと正直、後々苦しくなると思います。テクニックやスキルは、映像に真剣に向き合えば自然についてくるものですが、その姿勢の根元には「映像を好きだ」という思いが欠かせないはずです。まずはいろいろな映像に触れて、「⁠自分の心」を確かめてみてほしい。厳しい言い方をすれば、それでも「映像表現って面白いな、素敵だな」って思えないのであれば、それを仕事にしようとするのはやめた方がいいと思います。

――なんだか、誰にとっても不幸な結末になりそうですね……。

サンゼ:僕も14年やっていますけど、今の時代、自分より技術がある人はもう山ほどいます。だから「俺、下手だなー」「⁠もっとよくできたはずなのに」と感じて、心が折れる瞬間だってある。それでも仕事を続けられるのは、結局「映像が好きだ」というシンプルな思いに尽きると思うんです。それってもう個人の問題であって、他の人にどうこう言われて変わるものでもないじゃないですか。辛いときに支えてもらったとか、そういう原体験がある人は強いと思いますよ。

――ありがとうございます。他の仕事にも通じる話だと思いました。最後にお聞きしたいのですが、サンゼさんの原体験、一番影響を受けた映像は何ですか?

サンゼ:難しいな~(⁠笑⁠)⁠。本の中でも出しましたけど、映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ですかね。もちろんガジェットやSF表現も大好きなんですが、一番はストーリーです。見た方には伝わると思うのですが、あのストーリーが表現しているのは、「⁠過去のささいな努力によって、未来は大きく変わるんだよ」ということだと理解しています。今日の話も同じで、映像への気持ちを信じて一歩踏み出してみてもらえると嬉しいです。その先の未来に奥深い世界が待っているということは、自信をもって言えますよ。

こちらの漫画は本書のカバー・挿絵を担当していただいたスミマミさん作

※この記事は2022年2月10日に「gihyo.jp」で公開された記事の転載です。内容、肩書きなどは記事公開当時のものです。


※本書の担当編集者インタビューはこちら


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