小さな体に、大きすぎる魂を与えられし男 新井丈
今年の、いや、2022年と2023年の修斗は新井丈の年だった。
昨年のMVP獲得に続いて、今年もMVPに選ばれることはほぼ間違いないだろう。
王者の責務である防衛戦を最高の内容で勝って果たし、さらに、一階級上に挑み、修斗のルールを変え、修斗史上初の同時二階級制覇を成し遂げたのだから。
向こう10年分くらいのMVPに相当する戦い、存在感だった。
新井丈、RIZIN.45へ。
そして、急に飛び込んできたニュース。新井丈がRIZIN.45に出場決定。
来た、と思った。いよいよ、新井丈が世に知られる。
だが、やった!と素直に喜べないのは、11月の山内戦、フライ級チャンピオンシップが余りにも激しかったから。あの試合を見た者なら、試合直後の顔を知る者なら、そのダメージを心配しないではいられないだろう。
しかし、本人は、「治った」と言う。
そうだろう。僕らが知る新井丈は、そういう男だ。
新井丈が曇りのない表情で完治したと言うならば、僕らはそれを信じるしかない。
大いに暴れ、打ちのめし、勝ってくれ。
是非、全国のファンに、新井丈という人間を見せつけてほしい。
小さな体と大きすぎる魂の軌跡
9連敗からの11連勝。
修斗ストロー級王座に続いて、フライ級王座も獲得。修斗初の二階級同時制覇。
そういう口上を抜きにして、新井丈の試合は、抜群に面白い。まさにダントツだ。
常々、絶対に生で体感すべき試合だと断言してきた。
新井選手がジリジリと前に出るだけで、会場の空気が薄くなる。
パンチを繰り出せば、音なき轟音が聞こえ、その圧力は会場をも飲み込む。
是非、それを体感してほしい。
新井丈、その序章
新井選手の戦いぶりは、自らの身を削り、魂をぶつけて戦い抜く。そういう表現が相応しい。
対戦相手にとって、今の新井丈を止めるのは簡単ではない。カーフで削り、渾身のパンチを叩き込み、カウンターでタックルを狙う。しかし、体へのダメージで新井選手の前進を阻む作戦は、成し遂げることができない。
どんな攻勢に遭っても、新井選手は食いつくように決して目をそらさず、突き放し、最後に自分の魂を込めた拳を叩き込む。
だが、最初からそうだったわけではない。
2016年、活きの良い若い選手は、トップクラスに攻撃的だが、荒く、拙かった。線も細く、まだアスリートというには程遠かった。
2018年に修斗のインフィニティリーグに参戦。新井選手以外は全員グラップラーという状況で、なかなか望んだ展開にならず、相当ストレスがたまったと思う。
結果、インフィニティリーグは負けに負けた。
組まれ、寝かされ、絞められる。全試合で、グラップラーに教科書の様な勝ち方を許した。
あまりにも同じパターンで負けを繰り返すのを見て、正直、選手としてはここまでか、と思った。(そのことは、以前、懺悔した通り)
しかし、それでも諦めなかったのが、新井丈本人。まさに、NEVER GIVE UP。
それと、それを起用し続けた修斗も凄い。負けても負けても試合を組み続けたからこそ、大きな物語へと繋がっていった。
ここは、新井選手の決して諦めない不屈と、それを評価した修斗を讃え、素直に自分の見る目のなさを謝るしかない。
反転攻勢で連勝、修斗王座獲得、そして、二階級同時制覇へ
新井丈という男は、連敗が続く中でも自分自身を信じ抜き、ここから反転攻勢に出て、逆に連勝を重ねてついに修斗の頂点にまでたどり着く。こんなストーリー見たことがない。
個人的な印象としては、2020年くらいから、体が大きくなってきた印象で、飯野選手、木内選手を打ち破ったあたりで、持ち前のパンチという武器に加えて、技術的にもテイクダウンディフェンスなど対応力が向上、明確な「新井丈スタイル」を手に入れて強さを示し始めたと思う。
そして、元王者黒澤選手にも勝った頃には、誰もが、今、凄いことが起きていると感じたと思う。
文句なしの実績を引っ提げて、ついに王者・猿丸選手に挑むと、一気に打ち倒して勝利。見事、ストロー級世界王座を手中に収める。
新井選手は最軽量のストロー級にあっても、体格的には小さい方だ。だが、その心は、魂は、計り知れないほど大きい。
そのことを思い知らされたのが、フライ級への挑戦だった。話題作りではなく、本気でタイトルを取りに挑んでいったのだ。
明らかに体格で上回るフライ級の選手を相手に、ここでも勝利を重ねる。
当時ランキング1位の関口選手に勝利したことで、事実上のフライ級も制したと言って良い。
このままフライ級に上げるのか…と思いきや、ストロー級王座の防衛戦に臨む。王者としての責任をしっかり果たすことを忘れないのが、本当に素晴らしい。
当時、勢いよくランキングを駆け上ってきた安芸選手と対戦。短い時間ながらも自らの記憶を飛ばすほどの激闘で、これを撃破。防衛を果たすと、両方の肩にベルトをかけるべく、再び狙いをフライ級王座に定める。
そして、遂に訪れた山内選手とのフライ級チャンピオンシップ。
元々、修斗では、規約上同時ニ階級制覇を許していなかったが、新井選手の挑戦を後追いする形で、同時制覇を認める規約改定を行なった。この時点で、新井丈は歴史を変えたと言って良い。
しかし、山内渉選手は、修斗フライ級最強レベルのストライキングに加え、全局面で良く鍛えられ、体もどんどん大きくなっている。ハッキリ言って強い。
さすがに、新井丈の快進撃もここまでだろう…と思った人も多いはずだ。
試合は近年最高の大激闘となった。
1Rには新井選手がダウンを奪うが、2Rは山内選手の猛攻に晒され、金網を背負うシーンが増える一方、自身の攻撃は当たらなくなる。しかし、新井丈の目は死んでいない。2Rを耐え切り迎えた3R、ついに、山内選手をストレートで撃ち抜く。崩れ、立ちあがろうとする山内選手にさらに追撃、ついに新井丈が激闘を制した。新井丈が、見事に同時二階級制覇を成し遂げたのだ。
この時、修斗ファンの興奮は最高潮を迎えた。これほど会場が爆発したのは、いつ以来だろうか。興奮の渦に巻き込まれた客席では、皆が立ち上がり、叫び、こぶしを突き上げ、拍手を送った。涙する人も多い。
それほどまでに、熱く、激しく、成し遂げたことの大きな試合だった。
自分ものどが痛くなるほど叫んだ。何を叫んだのか覚えてないくらい、無我夢中だった。叫ばずにはいられなかった。
新井丈。あなたは、間違いなく修斗が誇るべき立派な王者だ。
新井丈というとてつもない物語は続く
修斗ファン的には、お腹いっぱいの新井丈劇場の一年だった。
見たいものはすべて見させてもらった。否、それ以上と言って良い。
だが、新井丈は満足していない。
年内最後の、「次の試合」を土壇場で呼び込んだ。自分は、新井丈という大きすぎる魂の重力が、この試合を引き寄せたのだ思っている。
対戦相手は、ヒロヤ選手に決まった。
ショートノーティスだ。前戦のダメージ、体調も心配。体格差もある。ファイトスタイルも、最近戦っていないタイプ。ケージからリングに変わって、戦い方も変わるだろう。知名度の差が、リスクにもなる。
…と、まぁ、色々思うところはあるが、もう良いんじゃない?
ここまでくると、相手は誰でも関係ない。
俺も、新井丈に全部ベットするよ。
期待も不安も全部込みで、新井丈劇場にしてほしい。
そして、勝ってくれ。
新井丈というとてつもない物語の続きを見たい。
追記 新井丈の言葉は等身大
ここ3年くらい、勝った後の新井丈の言葉を聞いて、言いようのない説得力を覚える。
熱く、真っ直ぐで、筋が通っている。
過大評価も過小評価もしない。
できると信じていることを言い、そして、実現する。
どこまでも等身大。だが、その等身大がとてつもなく大きいのだ。
今度の試合も、新井丈らしく勝ってもらって、次に目指すところを聴かせてほしい。
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新井丈 on Youtube
新井丈 修斗同時2階級制覇への日常
ザ・ハングリーという生きざま。
CineAltaカメラ BURANO:「YUME」監督 浜田毅 氏(JSC) 撮影 加藤航平 氏(JSC)【ソニー公式】
ソニーの新製品のPVに出演する新井丈選手。カッコいいストーリー仕立ての映像。
2023年11月19日 プロ修斗後楽園ホール大会 第10試合 新井丈vs山内渉
「今年一年は、最後の最後まで新井丈の年だったな」と笑いながら年を越したい。
2024年1月7日追記
新井丈選手は負けてしまった。悔しさが溢れるが、この動画を見て、スッと心のざわめきは収まった。
再び書きとどめよう。
新井丈。あなたは、修斗が誇るべき立派な王者だ、と。