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子育て世帯の高所得者が、低所得者に絡まれたときに心しておきたいこと

年少者扶養控除の復活や、子育て支援における所得制限の問題に言及するたびに、「高所得者憎し」の一方的な感情から低所得者に絡まれることが増えてきました。

どういう論理やねん。


…さまざまな反論が頭をよぎりますよね。

ただ、とにかく高所得者サイドが気をつけたいのは
「富の再配分の是非に言及するのは悪手」ということです。
相応の努力をした高所得者が、そうでない低所得者をたしなめる、という構図はかえって高所得者への憎悪を煽る結果になりますし(経験済み)、
社会主義国家の失敗の歴史なんて、残念ながら彼らの知的レベルでは理解することができません(暴言)

では「高所得者vs低所得者」「資本主義vs社会主義」とった不毛な議論になるのを回避するにはどうしたらよいのでしょうか。

基本は無視一択なのですが、あえて反論するとすれば「子育て世帯が世帯構成を無視して年収だけを根拠に制約を受ける」という点を問題視するにとどめるのがスマートだと思われます。

さて、この主張にはポイントは4つあります。
当事者には分かりきったことですが、そうでない人には実感がないので"共感"されません。
ひとつずつポイントを丁寧におさらいしていきましょう。

①「子育て世帯が」


これは非常にシンプルで「子育てをしているひとが、子育てをしないひとに比べて経済的に不利益になるのはおかしい」という論点です。

子育て世帯は精神的、時間的な負荷が非常に大きいのは明白です。
子どもを育てることの幸せはさておき、独身貴族やDINKsのほうが生活の自由度が高いのは否定しようがありません。

それに輪をかけて、高所得者はあらゆる子育て支援施策の制限を受けるため、経済的な負担まで大きいという現状があります。

つまり、一定以上の所得を持つ世帯にとっては、子どもを持たないという選択肢が完全に合理的になってしまうのです。

少子化が深刻な現状で、この逆転現象を放置することは、明らかに不合理だと考えています。

なお「子どもを産めるなんて、それだけで幸せなんだから贅沢言うな、我慢すべき」という非論理的な精神論は一切無視してください。いまは経済論の話をしているのですから。

ちなみに、こういう主張をする人は
・結婚できない嫉妬
・不妊の苦労

といった事情があるので、殴り合うとこちらが悪者に見える構図になりやすいです。感情論から来るクソリプは優しくスルーするのが賢明です。

②「世帯構成を無視して」

同じ年収1000万円でも、子どもの有無によって自由に使える金額は異なります。

子どもがいれば、食費や生活費、必要な住居の広さが大きく変わってくるからです。

この点を無視して、単に年収を区切りに税率や社会保険料を決定するべきではないことは明白です。

この点は「年少者扶養控除の復活」という議論に結びつくので、後述したいと思います。

③「年収だけを根拠に」

所得税や社会保険料といった、累進課税の根拠となる所得は基本的に"個人の"給与所得となっています。

よく見かける「共働き世帯 vs 専業主婦(夫)世帯 」の論争は、この点がネックになっています。

要は同じ世帯年収1000万円でも、夫婦で500万円ずつ稼ぐのと、一馬力で1000万円稼ぐのでは、後者のほうが負担が重い制度となっているのです。

共「専業主婦(夫)は時代遅れだ」
専「分業したほうが効率的でしょ」
共「共働きのほうが苦労してる」
専「共働きは子どもが可哀想」

みたいな不毛な論争はもうやめにしませんか。
それぞれの家庭ごとに「働きかたや夫婦間での分業の仕方があってよい」と私は思います。
というかそもそも子育て世帯同士で争っている場合じゃないんですよ。

④「制約を受ける」

さて、最後にして一番問題のあるポイントです。
奨学金の有無や私立無償化など、所得制限による制約はある種の"逆転現象"を生じさせています。

例えば年収1200万円で子どもを3人育てている世帯と、年収600万円で子どもを1人育てている世帯があるとします。

年収の差は2倍です。
前者は年収が一定以上あるので所得制限の対象になりますが、後者は制度の恩恵を受けることができます。

…あれ、子ども1人あたりの年収で見ると…?
前者は1200÷3=400
後者は600÷1=600

!?!?

後者のほうが子ども1人あたりに使えるお金が1.5倍も多いのに、前者は子育て支援を受けることができないのです。
(③の論点で述べたように、累進課税による手取り減を考慮すると、さらに差が開きます)

この逆進性は非常に問題だと思います。
その先に待っているのは「高所得者の産み控え」であり、それは少子化の加速を意味します。

まさに「それな」

要は、高所得者があと1人育てられたはずの余力を奪って、低所得者が1人育てるための原資にしている状態なので、めぐりめぐって子育て支援の効果は相殺されてしまうのです。

「子育て支援をどんなにしたって、少子化を食い止める実績が出ていないからやるだけ無意味」という頭すっからかんな主張のひとは、この実態をふまえて再考してみてください。

エビデンス以前に、精神的・時間的コストを支払っている子育て世帯が経済的コストまで負わされたら「産むより産まないほうが合理的になってしまう」という経済合理性の理論で十分説明がつくと思うのですが…。というかエビデンスが揃うのを待ってる間に日本が終了しそう


「限られた予算のなかで子育て支援を運用する以上は仕方ないだろ」という意見も真っ当ではあるのですが、
言わせてもらえば、そもそも社会にとって最重要である子育て支援を
所得制限という子育て世帯間での再配分で賄おうとすること自体がナンセンスなのではないでしょうか。

とにかく、子育て支援の原資を、子育て世帯の高所得者に押し付けてその効果を相殺させる、という意味不明な構図はもうやめにしませんか。

最近になってようやく児童手当の所得制限がなくなりました。
これはいい傾向だと思います。

①でも書きましたが、子育て支援の文脈において「一定以上の所得を持つ世帯にとっては、子どもを持たないという選択肢が完全に合理的になってしまう」
という不均衡はいますぐ是正されるべきです。

行き着く先は「年少者扶養控除の復活」

書きながらブチ切れすぎて長くなってしまいました。
結局のところ「子育て世帯が世帯構成を無視して年収だけを根拠に制約を受ける」という不合理な状態を解消するカギは「年少者扶養控除の復活」にあると思います。

0〜15歳にかかる子育ての費用を、経費としてその人数分だけ控除することで、子育て世帯への課税基準となる所得ラインを可処分所得の実態に近づけることができるようになります。

あれ、与野党連携で日本人消滅させようとしてる…?

制度の変遷を考えると児童手当とのトレードオフになりそうですが、「控除」という機能の性質上、給付型の児童手当に比べて「低所得者ほど恩恵が小さくなる」という側面もありますので、この辺りは丁寧な議論が必要かもしれません。場合によってはハイブリッド型(高所得者は控除、低所得者は給付)という制度提案も検討の余地があるでしょう。

いずれにせよ、「子育て世帯が世帯構成を無視して年収だけを根拠に制約を受ける」という不合理な状態は早期に解消されてほしいと思います。

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