「しつこい」力、逆境指数
「また練習に付き合わされたのよ」
妹が中学生だった頃、よく放課後にこう愚痴をこぼしていた。
「また?」
「そう。例の子。
自分で書いた曲だかなんだか知らないけど、いちいち私に弾かせるの」
妹が言う「例の子」というのは、クラスメイトの一人だ。
女の子で、音楽が大好きらしく、よく自分で作曲をしているらしい。
そしてピアノが出来る妹にお願いして弾いてもらい、曲の効果をチェックしているのだとか。
「毎回すごく時間がかかるの。彼女が満足するまで曲直しに付き合わされて、また弾いて……
そんなに良い曲でもないし……嫌になっちゃう」
正直、私もあの頃は妹の話を聞いて、なんと自己中心で自惚れた子だろうと思った。
たかが中学生。所詮一時的なノリで勝手な曲を書いているに違いない。
ーーそう思っていた。
ところがだ。
あれから何年ぐらい経ったある日のこと。
フェイスブックを覗きながら、妹が驚きの声をあげていた。
「この子……!例の子!例の子が!!!」
「久しぶりに聞くね。その子がどうしたの?今になってまた練習に付き合えと?(笑)」
「違う!例の子が、
作曲家デビューしたんだって!!!」
スクリーンに映し出された記事には、輝いた笑顔の彼女と、今の成功に至るまでの経緯に関するインタビューがのっていた。
「子供の頃から音楽が好きでした……」
「中学生だった頃も、時間さえあれば作曲に没頭していました……」
しばらくただただ口を開けたまま読んでいた。
驚きだった。
そして、当時彼女を見下していた自分が恥ずかしくなった。
あれから、誰をも馬鹿にしないよう、気を付けるようになった。
不思議なことだが、多くの人は、大して努力をせずとも優秀でいられる人に尊敬の念を抱きがちだ。
顔色一つ変えずにさらっとすごいことをやってしまう「天才」は、いつだって注目の的。
それに引き換え、一生懸命なのにも関わらず、努力しているものは蔑まれ、笑われ、肩身狭い思いをしていなければならない。
必死にコツコツと頑張ることはとても素晴らしいことなのに愚かに見えてしまうのは、多分
何度も何度もチャレンジしても上手くいかない姿は、
あまりかっこいいものでないからなのだろう。
けど、こういった「醜さ」にこそ表れるパワーがある。
AQ(逆境指数)だ。
逆境指数とは、逆境に対応する力のことだ。
困難を前に、挫折して逃げるか、或いはそれをチャンスに変えて突き進むかで、結果は大きく変わってくる。
生まれつきあれこれと出来てしまう人は確かに素晴らしいが、所詮長けているのはスキルのみだ。
特に失敗体験も少なく、周りからちやほやされて育った人は心が弱い。
ちょっとしたことで傷つき、何もかも投げ出しては諦めてしまう。
そんな人は、たとえ才能があったとしても、何かをやり遂げることは出来ない。
最初の頃は頂点に立って威張っていられても、時間が経つにつれてどんどん追い越されてしまうだろう。
それ故、AQ(逆境指数)はIQ(知能指数)以上に大事なものとされており、
AQ(逆境指数)が大きければ大きい程、
成功しやすいとも言われている。
もし身近に、どんなに打たれても絶対に諦めずにいる人がいるなら、絶対に馬鹿にしてはいけない。
積もりに積もった力が解き放たれる時、
とんでもないことになるぞ!
(はてなブログ同時掲載:https://www.gifteddecoboko.com/entry/2019/07/30/080000)
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