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手が荒れていたTさん
去年の春くらいだろうか
いつも利用しているドラッグストアで、レジ打ちの女性が中学の同級生だったTさんだと気づいた。
双方ともマスクで、彼女の方は気づいていない。私は彼女の名札を見て気づいた。
彼女は中学で転校してきて、取り立てて目立つ子ではなかったが、なぜか男子がいじめ、というかいじりの標的にしていて、よく揶揄われていた。
「ブス!うっせーんだよ!ブス‼︎」ってな感じだ。ほかにもブスはいっぱいいた。いや、ほぼ8割はブスだったはずで、「まあまあ」が1割5分、残り5パーセントがイケてる感じだろうか。とにかく、田舎の中学ではほぼブスだらけなのだ。でもなぜか、Tさんは、そんなふうに男子がいじるので、記憶にあった。
確かに、どちらかといえばブスのカテゴリーで、ワタシも人のことは言えた義理ではないが、彼女はブスだったと思う。
ただほかにもブスはいっぱいいた。なぜ彼女がいじりの標的になるのか、不思議ではあった。
不思議ではあったが、強いて言えば
「何いってんの?アタシはずっとかわいいって言われてきてるんだから!」みたいな、妙な確信がTさんの中にはあって、当時流行りのぶりっ子スタイルを真似ていたのが、男子の不興をかったのかもしれないけど。
後に知ったのは、彼女は一人っ子で、おそらくご両親は彼女を「かわいい」といい続けて育てたことだろう。とにかく親の愛情たっぷりに、彼女は育ったはずだ。だから自信があった。「ワタシはかわいい🩷」と。
男子にどれだけ貶されても、彼女は負けなかった。清々しいくらいに蹴散らして、自信たっぷりだったのである。
ワタシは、そのことを深く記憶していて、それを心底羨ましいと思っていた。Tさんは、負けないんだ。Tさんは、ご両親に深く愛されているんだ。と。
その頃の私は、ニキビがひどくて母にはぶつぶつだな、と言われ、汚いとすら言われ、母を憎んだ。
両親の愛情なんて感じたことはない。
たとえブスと言われようとも、一身に親の愛情を集めていた彼女が心底羨ましかった。
あれから35年経って、彼女の手はひどく荒れていた。正直言って痛ましいと思えるレベルだ。
ご両親も健在かどうか知らない。
還暦近くなってドラッグストアに現れた彼女の人生を知る由もないが、荒れた手の彼女を見て思のは、
手荒れが良くなりますように。
ということだけだった。