旅の景色に思う
磐梯山の麓で泊まった日、空のほとんどが紺色に染まり、西の端にオレンジとのグラデーションがわずかに残る夕暮れに一番星が見えた。右には磐梯山の深い黒のシルエット。バイクの白色LEDライトは情緒のかけらもなく道を照らす。
ここで育つ子供は、友達と遊んだ後にこのだだっ広い田んぼ道をひたすら家まで歩いて帰る日もあるのだろう。好きな子といっしょに下校する日もあるだろう。そしていつかは大人になってここを出ていく人も少なからずいるのだろう。
間近に見える磐梯山も、どこまでも続く田んぼの平野も、ここで生まれた人にはなんてことはない日常だけど、ここで育つことで、いつか変え難いアイデンティティの一部になるのかもしれないと思った。僕が大人になって恵那山や中津川を改めて好きになったように。
人が暮らす所を見ながら全国を回りたいと思ってバイクで走ってきた。道すがら発見する看板や建物などで、暮らしの姿を想像することはこの旅の日常だが、地に足をつけたように、自分の身のようにじんわり、そう感じたのは初めてだった。自分の故郷がこことは逆に平野が少ないから、美しい平野への憧れもあるかもしれない。
いつか誰かが、雄大な恵那山を望む起伏の多い街に同じ気持ちを感じてくれたら嬉しい。