傘をさすと彼女は

傘をさすと彼女は背筋が伸びる。

傘はネイビーの無印の傘で、メンズのかな、と僕は思っている。

けれど彼女は気にせずにそれをさして、歩いている。
背筋を伸ばして、いるように見えるのは、傘がまっすぐに彼女と並行して立っているからで、だから、何か様式美みたいなふうに見えるのだ。

彼女の靴はやはりネイビーのバレーシューズで、踵も高くないので、歩きやすそうで、彼女にとてもよく似合っている。

そして雨が彼女の傘を叩いて、僕の声はおそらく届かない。

だから知らぬうちに彼女は、あんなにも遠くに行ってしまったと気づく。

もうすぐ気づくだろう、彼女は僕から遠くを歩いていると。

その姿はもう小さくなってしまって、だけどまだ彼女の背筋が伸びているのはよくわかる。

あれ、と彼女は振り返る。

僕の姿を探している。
すぐに気づいて、手を振るのかもしれない。