見出し画像

ちいさいあきみつけた

大きな秋は、残念ながらちょっと見当たらなかった。
ちいさい秋で、まあいいか、と僕はフードを被った。
地下鉄に乗って家に帰る。
秋は僕の隣にいて、何にも喋らずについてくる。
一旦見つけた秋は、見つけたもののしもべとなり、徹底的に尽くす。

大きな秋だったらなあ、と思わなくもない。
その腕力や勇気で僕を窮地から救ってくれるかもしれない。
僕がそんな窮地に陥るとは思わないけれど、何事も準備、というじゃないか。


地下鉄を降りて、そのまま家に帰るのもなんだかなあ、と思い、立ち飲み屋に寄る。
秋もやはり何も言わずについてくる。

僕はハイボールと枝豆、ハムカツを注文する。
秋も何か飲む?と聞くと、僕と同じものを、と言ったので、注文してやる。
しばらくして出てきたハイボールで僕らは乾杯した。

酒のめるんだ?
飲んだことないけど。と答える秋の目は、もう酔っ払っているようにとろんと潤んでいた。

大きな秋じゃなくてよかった、と僕はその時思った。
いや、ちいさい秋だけでも十分よかった。
この秋の横顔は僕好みで、しばらく見つめているとそれに気づいた秋は頬を赤た。

僕はハイボールをすぐに飲み干して、おかわりを注文する。
秋はまだほとんど飲んでいない1杯目のハイボールを舐めるようすすって、ハムカツを待っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?