運命がカードを混ぜ、われわれが勝負する2
カードを混ぜるのはT(16・男性)。
彼はカードを混ぜるために製造された人間である。
試験管生まれ、富良野育ち。
富良野に実験施設があって、その育児施設で育った。
彼に名前はない。だから仮にTとしておく。
彼もHと同様、カードを混ぜてその報酬で生き延びてきた。
ここで生まれた人間はカードを与えられ、その混ぜ方によってその後の人生が決められる。
Hは完全に誤算であった。後にバトルを心の拠り所として、殺戮に染められた人生を送る想定など、当然なかった。
だからTは慎重に育てられた。
報酬とすることに変わりはなかったが、彼に対しては道徳や倫理も教えられた。
そうすることで、通常の感情を抱く、通常の人間として、カードを混ぜることに害がないように教育プログラムは組み立てられた。
その甲斐あって、彼はすくすくと育った。
彼も5歳のことである。
彼は入念な準備のもと、施設の外へ連れ出された。
失敗を受けて、装備した監視員が数十人見守っていた。
彼はHと同じように、外であることに衝撃を受け、猛烈に感動した。
そして自分を育ててくれた施設に感謝して頭を下げた。
それを見た施設幹部は安堵のため息を漏らした。
彼はそれからカードを切り始めた。
監視員からやや警戒心が巻き起こった直後、常人にも見えるような速度のカードは表れては消えた。
彼は魔法を使うようにカードを自在に操って、監視員の微笑みを誘った。
けれど以来、彼は笑わなくなった。
理由はわからない、彼に聞くこともできない。
何せ彼はしゃべられない。
施設は知識を詰め込むことに夢中で彼に発することを教えなかった。
通常、人間は教えられて喋るわけではないが、彼は特殊な状況にあった。
何が起きても不思議ではない。
その後も彼は喋ることなく、トランプの魔法で人々に笑顔をもたらす。
後のトランプマンである。