男は暗闇で鍵を落とした
男が落とした鍵は大切なものではなかった。
もう必要ないものだった。
けれど男は鍵を探している。
すぐに見つかると思ったが、なかなか見つからなかった。
暗闇は深く、足元さえ何も見えない。
男は手探りで、鍵を探す。
向こうに灯りが見える。
とりあえず、そこに行こうと思った。
こんなにも暗い場所では何もできない。
それだったら明るい場所で一旦考えよう、と思った。
ふらふらとあかりの方へ近づく。
灯りは焚き火であった。
焚き火の周りに人が踊っている。
男はその輪に近づくと、自然に、輪が割れて男を誘った。
輪に加わった男は同じように踊り出す。
鍵を落としたことももう忘れてしまった。
鍵は暗闇にある。
持ち主はあかりの周りで踊っている。
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