りんごとは
赤いものである。
赤く、憂鬱なものである。
りんごがりんごとして食卓に乗っかっている時、自分がりんごであると意識しているわけではない。
りんごかもしれない、予感だけが彼の全てを包み込んでいる。
しかしりんごは我々にとってあくまでもりんごでしかない。
それ以上でもそれ以下でもない。
りんごが我々にもたらすものは、りんごとしての食感や味、香り飲みである。
それを持って記念に撮影すれば、りんごを持った人が出来上がる。
決してれもんを持った人にはならない。
それがりんごの限界であると、りんごはしっている。
ちゃんと知っていて、それでも背伸びしようとする。
背伸びするのは悪いことではない、誰も背伸びしてようやく大人になるんだから。
大人になりたくてもがいていた、あの頃が、思い出される。
背伸びしてタバコを吸ってみた。大きくむせて何が楽しくてこんな煙を、と吐き出した。正解、タバコを吸ったりんごはうまくないのだから。
すぐにうがいをして、牛乳を飲んだ。
何か打ち消してくれそうな気がしたから。
匂いは取れたけれど、何か取り返しのつかないことになったような気がした。
もう戻れない。確かに誰かにそう耳元で囁かれたのだ。
りんごは部屋から飛び出した。
ここではないどこかへ、いけばなんとかなる気がした。