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引きずり豆腐

妖怪である。
姿形は豆腐そのもの、けれど、彼は豆腐だと思って掬ったものの手に噛みつき、そいつごとぐつぐつ煮える湯の中に引き摺り込んでしまう。
掴まれたら最後、もう抗えない。何人も、引きずり豆腐の腕力に屈し、湯の中へダイブ。

沈んだのち、バタフライ、息継ぎをし、ぐんぐん進んでいくようであるが、その実、鍋の中である。ゆだりつつある。
半生ぐらいが一番美味しいから、と物知りの部長が狙っている。
その箸を掻い潜り、バタフライ、お前はまだ泳げる。
その力を120%発揮して、部長の箸から逃げろ。
辿り着く場所は栄光、架け橋を渡るのだ。

豆腐はといえば、もう実態を持たない。
概念である。
豆腐であったもの、豆腐の抜け殻、がバタフライ200m決勝の舞台にぷかぷかと浮かんでいる。

ああっと、あれはなんでしょう、豆腐のようにも見えますが?
あれはね、スイムの女神様ですよ。
スイムの女神様?
そう、時々現れては泳ぐものに祝福のキッスを与えるんです。
キッスを受けたものはどうなるんですか?
決まっているじゃない、分裂する。

二つになっても依然としてバタフライはやめないガール。

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