ジェームス・ボンodori
かつて仕事でやってきたジェームス・ボンドが踊ったことで始まり、
ボンodori、としてこの地方に伝えられてきた踊りだ。
今は老いも若きも入り混じって踊っている。
慣れない動きのものには手を差し伸べられ、正しいフォームに修正されて踊りが継承されていく。
伝統はこうして、作り上げられるんだろうな、と僕は思う。
もしもジェームス・ボンドがこの土地に任務でやって来なかったなら、この踊りは存在していなかった。
熱心に指導する長老に詳しくについて尋ねてみると、かれこれ300年近く前に作られたそうだ。
ジェームス・ボンドは世襲制だから、確かにあっちはそれぐらい前から存在していてもおかしくはない。
疑う余地はない、と僕は思っているが、カメラマンの岩倉さんはとても懐疑的で、なんなら完全に疑っている。
同じく長老に、さらに詳しく聞いてみれば、当時のジェームス・ボンドはアジア人で、醤油顔のナイスガイだったそうだ。
それは日本人で、ただの都会から来た若い衆ではないのか、と岩倉さんは言うが、違う、ジェームス・ボンドは世界中に散らばって存在するものだから。
紛れもなくこれはジェームス・ボンodoriなのである。
僕は長老の想いを代弁して、気づいたら手足を動かしてその列に加わり、自分か他人かの区別、すでになくなり候。