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茶碗蒸し革命

蓋を開けるとそこは、雪国であった。
当然、熱い。けれども、もう雪国の凍える手に息を吹きかけて温める節子の行動になっていた。
具は何も入っていない。
つまりは卵液であった。

たっぷりと出汁を含んで濃厚な味わい、とも違う。
その卵液は蛋白であり、卵そのものの旨み、それだけで勝負している潔さがあった。
もちろん、味がないわけではなく、卵の旨み、コク、風味があって、そこに塩味が乗っていた。
まるで卵の波に乗るサーファーさながら、塩味は強くその体を縦横無尽に動かしていた。

僕は当てずっぽうに、その作り方についての考察を料理人に伝えてみる。
ははん、と料理人は笑って、しかし決して突き放した笑いではなく、全てを包み込む優しさに満ち溢れていたのだ。

茶碗蒸し革命。
大砲が発射された。
味という名の民衆は、一斉に槍を持って城に攻め込む。
虐げられた今までの恨みを解き放つように、民衆は城のありとあらゆるものを壊していく。
まるで壊すことが初めから決まっていたように、順番に壊れていく。
黙って見ているだけではない、王側だってプライドや、その他諸々の要素がある。
簡単に潰されてたまるか、と意地を見せる。
そのぶつかり合いが革命だ。

しばらくこう着状態が続いたかと思うと、民衆のその圧倒的な勢力が城を粉砕し、もうこれ以上は壊れないよ、というところまでいく。
僕らは一旦壊された、今日から新たな一歩を歩んでいくのだろう。

と、顔をあげると、料理人の振り上げた包丁が妻の首に

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