夜を泳ぐ
私は夜に沈んだ。
魚として、その空間を泳がなければならない。
魚に目的があって泳いでいるのか、否、魚が泳ぐのに理由はいりません。
木下さんは先に沈んでいる。
後を追って沈んだまでだ。
沈んだはいいとして、これからどうするのかよくわかっていない。
肝心の木下さんはすでに朦朧と泳いでいるし、それを追いかけるしかない。
まだ、私の意識はちゃんとある。
いや全然、朦朧としていないし、酔ってもいないので、むしろ木下さんを自宅に送り届けないといけない立場である。
そしてさよならって別れて、また明日、日常に戻るだけ。
わかっている、ちゃんとその役目も果たす。
誰に頼まれたわけではないけれど、私は真面目に社会の一員となる。
だからもう少し、朦朧と歩く木下さんの向かう方へ私を泳がせて欲しい。
自由に泳ぐなんてとんでもない、そんなことは望んでいない。
木下さんがコンビニによればそれに続き、次の居酒屋に入ればそれに続き、だ。
行き先は私が決めない、そういうルールを課して泳ぐ魚。
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