あゝゝ、良夜かな
この良き夜のふたりをもう少しだけ続けてみよう。
繰り返し断っておくが、今僕は独身の30の筋骨隆々で、弁護士資格を持つ若者である。
僕の返信に対する彼女のLINE。
「よかった、じゃあ絶対行くから待っててください」
ぺこりと謝るイラストがついている。
僕はそれを眺めてニヤニヤしている。
ハイボールとハムカツはすぐに運ばれてくる。
しばらくすると客が増えてくる。
さすが僕が見込んだけある、人気の居酒屋である。
平日にも関わらずこの入りよう、しっかりと町に根付いた店の隅で、僕はハムカツをつまむ。
ふと入ってきた客と目が合う。
彼女は僕が今一番、仲良くなりたいと思っていた同僚である。
彼女は連れと二人入ってきて、そのつれのことは知らなかったが、二人の関係は推して知るべし、親密さが滲み出ていた。
仮に木下さんとしよう。
そうか、木下さんにはこんな恋人がいるのか、と思いながら、目を逸らす。
別に誰にも言わないし、自由に飲めばいいよ。
最悪なのは、気まずくなってそのまま店を変えてしまうことだ。
いけない、せっかくやってきた地下酒屋で、何も飲まずに店を出てはいけない。
どうか遠慮なく、飲み食いして欲しい。
僕の杞憂を、知ってか知らずか木下さんは何食わぬ顔で席につく。
もう客が埋まりつつあったので、僕の近くだった。
自然に会話が聞こえてくる。
こっちは一人ハイボールにハムカツ、なんとなく恥ずかしい気分になる。
どうやら、木下さん達もまだ、深い仲、というわけではなく、これからそうなるかもしれないYokanを秘めていた。
その現場に立ち会う僕は、2杯目のハイボールを静かに頼む。
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