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The last Sansuke

(こちらは「最後の三助さん」1・2・3を合わせた記事です)

銭湯において男女隔てなく、背中を流し、マッサージをする番頭さん。
三助さん、という古き良き時代の職業であった。
その三助さんが、今絶滅の危機に瀕している。
政府に対し、支援者はその保護を訴えたが、善処します、の通知のみ。
何もしない、と同義語である。
政府の対策を待っていては、三助さんは絶滅してしまう。
この文化を是非とも後世に伝えたい、という支援団体、三助さんを守る会。
その会議室は市民プラザの3階、第3会議室にて行われる。
出席者は4名であった。
会員は何をしている、こんな危機が迫っているというのに、今集まらないで、いつ集まるんだ、と副会長の怒鳴り声。
いや、全員集まったとしても6名ですけど、と思ったが口に出してはいけない。
会員数の減少も、課題であった。
会長、会員数を増やすように何かチラシをばら撒きましょう。
駅前で、誰でもいいからチラシを配って、一人でも多くの会員を集めるんです。
そうしないと国は動きません。
まあ、そう熱くならずに、と会長。
熱くなっていては敵の思う壺ですよ。
会長が想定する敵が誰なのか、詳しく聞いたことはないけれど、会長はよく敵を想定する。
想定して、対策は何もしない、でお馴染みである。
僕は一番年下で、会員歴も浅いので、書記的な役割を担わされている。
別に苦ではないし、会長や副会長のやり取りを記録して、書いている小説のネタにしている。
それが面白いのかどうか、正直わからないところではあるが、僕にできる三助さん保護、だと思っている。

銭湯という文化の、残り香、とも言えそうな気がする。
このコンプライアンス全盛の時代に、男女の隔てなく、背中を流して、マッサージをするだなんて、なんて職業だろう。

文献によると、性的なサービスも行われていたようで、性に対して奔放な時代の文化だったのかも知れない。

男女混浴が通常だったのだから、うなづける話である。

今となってはモノ好きの老人がたまに習慣として三助さんを利用する程度、もちろんそれで生活ができるわけではないから、兼業ということになる。

全盛期には、三助さん、だけで家を建てたよ、という強者もいたという。

そうそう、料金の支払いシステムも独特で、客はまず銭湯に入っている際に、三助さーん、と叫ぶ。間髪入れずに、はーい、と答えて、三助さんは浴室に入ってくる。
男湯であろうと、女湯であろうと三助さんには浴室に入る権利を持っている。
それは暗黙の了解として、根付いていた。

若い娘さんも、別に恥じることもなく、三助さん、を受け入れていたという。

三助さんに人権はあったのか、など考えると少し深い話ができそうである。
ここでは一旦、そんなややこしい事情は忘れよう。

客が呼ぶ、三助さんが入ってくる。そして何も言わずに、始まる。
背中を丁寧に流し、洗う。
背中、と説明しているものの、場合によっては、というかほとんどの場合、全身を洗う。

客は何も背中だけ綺麗にして欲しいわけではない。
その体の全てを丁寧に洗うのである。
恐るべき文化である。
この辺り、いかにも性的なサービスに発展する予感が漂っているではないか。

さて、背中を流す。

大抵の客は、風呂に浸かり、程よく温まったあと、最後に三助さんを呼ぶ。
そして体をしっかりと洗った上で風呂から上がる。

馴染みの三助さんであれば、昨日何を食べた、女房の下っ腹がどうこう、など軽口を叩きつつ、体を拭き、浴衣を着る。
ここでも三助さんはその動作を手伝ってくれる。
現代の我々からすれば、それぐらい自分でやればいいのに、とか思うかも知れないが、当時は三助さんの仕事であった。

そしてここから、マッサージである。

銭湯には、2階があって、そこが憩いの場となっていた。
休憩場である。
博打をするもの、隣の鰻屋から出前をとるもの、過ごし方は様々であるが、その一角に、三助さん専用マッサージ場があった。

これは現代でも見かけるスタイルである。
温泉の一角にマッサージ師さんがいて、料金を支払えば一定時間マッサージを受けることができる、のに馴染みはあるだろう。
その先駆けが三助さんであった。

ただし、ここからやや声のトーンを落としますが、決して大広間の一角というわけではなく、個室に近い形態であった。そこでマッサージと言いつつ、性的なサービスが始まるのである。
全て、毎回、というわけではない。
健全なマッサージの場合もある。
統計をとっているわけではないので、詳しいことはなぜであるが、いつくかの証言がある。

証言をつなぎ合わせると、3割程度はそういうモゾモゾ、があったようである、としか言えない。

その内容は差し控えておこう。

少なくとも、教科書に書く内容ではない。

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