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秋の空と乙女

季節を先取る男である。
まだ暑い時期であるが、もう秋の話をする。
秋の空が遠くまで透き通っていて深い、という表現を聞く。
本当に遠いのか。
いや、物理的な距離で言えば何も変わっていないのだから、遠いわけではない。
けれども、秋の空が遠くにあるような気がするのは、決して気のせいではなくて、本当に距離が遠くなるからである。

説明しよう。
まずですね、空とはなんだろう。
ビルディングみたいにそこに存在するわけではない、ということが重要なのです。
近くまで行って、コンコンと叩くことができないのが空。
つまり、空の実態はそれぞれの心の中に持っているというわけなのです。
なんと、だったら、どれが空なのかわからないわけだから、気持ち次第で遠くにも近くにもなりうる。

一方その頃、秋の乙女です。
好きだという気持ちをうまく表現できずにモヤモヤしている乙女です。
彼女が見上げる空はやはり遠くて、僕はそれを知っていたけれど、返事は返さないまま電車に飛び乗ったのさ。

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