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夏至にむかって、落下する
日が長くなると、活動時間も長くなる。
と、木下さんは繰り返す。
もう7時過ぎなのに、まだ明るい。
はっきりと顔の表情まで読み取れる。
活動時間が長くなるということは、酒を飲む時間も長くなるということ、だからさあ、飲もうじゃないか、この酒を、浴びるように、染み込むように飲もうじゃないか。
と木下さんは陽気に歌い出す。
そんなキャラだったかな、と僕は思ったけれど、そんなキャラかどうかも知らないほど、僕らは知り合って間もない。
というか、木下さんと知り合ったのは4時間前だ。
僕は暇を弄ばせていた。
だから路地裏に入って、ふらふらと歩いていたのだ。
知らない土地の、でも多分公道だから、違法ということはないと思いながら、ふらふらと路地裏の狭い道を歩いていたわけだ。
通りかかった家の玄関に桶があって、水が入っていて、木下さんが入っていた。
一瞬、本当に一瞬だけど、妖精かと思った。
けれどよくみてみると、小さめのおっさんだった。
おっさんは公道の側で半裸になってオケで水浴びをしていた。
僕をみて木下さんは、浴びてくかい?と言った。
いや浴びません、と返したものの、とても涼しげで羨ましくなったのは事実だ。
ちょっと待ってて、ちょうど飲み相手がいなかったんだ。
キミ、飲もうよ。
断る隙間を与えずに木下さんは、体を拭いて家に入り、浴衣をきて出てきた。
それから、少し歩いたところにある酒屋の外にあるビールケースに座って、僕らは飲んでいる。
夏至に向かってまっしぐら、であった。