「甘宮亜希は世界で1番可愛い!」第2話
【第2話】
姉よりも、可愛い(3950文字)
○女子大の敷地内、外(昼)
その大学では学園祭が開かれていた。たくさんの人が来場し、露店が並んでいる。
「アタシたちの学校の学園祭とは、雰囲気が違うね」
「ウチの学園祭って、地域にある複数の高校が合同でやるから。それと比べると、ね」
甘宮と氷川は女子大の学園祭に来ていた。二人は露店を眺めつつ歩いている。
『私たちは、女子大の学園祭に来ています!』
【回想開始/数日前】
○高校の屋上
昼休みの屋上にて、甘宮と氷川が弁当を食べながら話していた。
「女子大の学園祭?」
「うん。お姉ちゃんが通ってる大学なんだけど、チケットをくれてさ」
甘宮の手には学園祭のチケットが二枚握られている。
「女子大ってオシャレな人がいるイメージあるし……」
「どうかな、行ってみる?」
甘宮はチケットを一枚、氷川に渡す。
「うん」
喜んでチケットを受け取る氷川。
【回想終了】
○女子大の校内、廊下
「お姉ちゃんが、この辺にいるって聞いたんだけどなあ…」
周囲を見渡して姉を探す甘宮。
「一緒にお出かけするのって、初めてだね」
氷川は隣を歩きながら、甘宮を横目で見る。
「そういえば、そうかな」
「なんだか、これって」
(デートみたいかも…)
赤くなった頬を両手で抑える氷川。口元が緩んでいた。
「亜希っ!」
遠くから甘宮を呼ぶ声が聞こえる。女性がこちらに向かって手を振ってきた。
「お姉ちゃん!」
甘宮は近づいてくる姉に気付いて、手を振り返した。
○女子大の教室
教室はオシャレなカフェのように飾り付けされており、喫茶店を営業していた。
甘宮と氷川は客として来店し、紅茶を飲んでいる。
「甘宮亜希の姉、夏希です! よろしくっ!」
夏希は爽やかに笑って自己紹介した。
(綺麗な人だな……)
夏希をじっと観察する氷川。綺麗な茶髪と快活な表情。顔は弟に似ており可愛らしい。現在はエプロン姿をしていた。
「いやぁ驚いた。亜希が彼女を連れてくるとは思わなかったよ」
「ちょ──!」
紅茶を飲んでいた甘宮は咳き込む。
氷川も赤面して顔を逸らした。
「昔から自分の可愛さにしか興味なかったし…彼女ができるとは考えもしなかったなぁ」
「彼女じゃないってばっ! 氷川さんは友達だよ!」
「ホント~? 付き合ってんじゃないの~?」
ぷんすかと腹を立てて抵抗する甘宮。
「子どもの頃から、甘宮くんは可愛かったんですか?」
氷川は話を逸らすため、前のめりになって問いかける。
「子どもの頃かぁ…」
その言葉に、夏希の表情は陰りを見せた。
「あ! この子が噂の弟ちゃん?」
「ホントに女装してる~! 可愛い~!」
夏希が逡巡していると、教室の入り口から女性の声が聞えてくる。それは垢抜けた容姿をした女子大生だった。楽しそうに甘宮の元へと近づいてくる。
「あの、この人たちは?」
「私の友達。亜希の写真を見せたら、会いたいって言っててさ」
「もしかして、このため学祭に呼んだのか――むにゃう!?」
甘宮はジト目で夏希を見ていると、女子大生の一人に頭を撫でられる。
「ホントに地毛? めっちゃサラサラじゃん!」
「お人形さんみたいやわ」
他の友達も甘宮のことを可愛がり始める。
「マジで男なの? 肌とか超キレイじゃん!」
「目もパッチリしてるね」
「お化粧してるわけじゃないのか…」
頭を撫でられたり、頬をつねられたり、腕や手を掴まれたり、揉みくちゃにされる甘宮。
「あばばばば」
甘宮は目を回して、されるがままになってしまう。
(……)
氷川はそんな甘宮の姿に頬を膨らませて嫉妬した。女子大生に囲まれている甘宮の腕を、強引に掴んで引き寄せる。甘宮は氷川の胸の中に納まり、囲いから抜け出す。
「あんまり、乱暴に愛でないでください」
「彼をいじめるなら、アタシも同じことしちゃいますよ?」
氷川は凛々しく男子も顔負けのカッコよさを発揮していた。
そんな氷川にポカンとしながら、見惚れる女子大生たち。
「え~! なにいまの~!」
「超カッコいい!」
「連絡先教えてーや!」
見惚れて空気が止まったのは一瞬で、テンションが上がる女子大生たち。氷川を囲んで一斉に話しかけた。
「えっ!?」
圧の強さに戸惑う氷川。オドオドとしていると、夏希が止めに入ってくれた。
「はいはい、そこまで!」
手を叩いて、女子大生たちを落ち着かせる。
「若い子たちに手ぇ出しちゃダメでしょ?」
「アンタたちも、そろそろ他も回ってきなさい。せっかく来たんだしね」
夏希はからかうように笑って、氷川の耳元に顔を近づけた。
「二人きりなんだから、頑張りなさいよ」
「――!」
耳元で囁かれた一言に、氷川は耳を赤く染める。
「ね?」
夏希は悪戯っぽく笑うと、二人を店から追い出す。
「は…はい」
氷川は照れながら頷いて、教室を去った。
○女子大、廊下
喫茶店から出た二人は、学園祭を見て回っている。
「ったく、姉ちゃんめ……」
髪の毛をボサボサにした甘宮は、げっそりとしていた。
「大丈夫?」
「……気にしないで。それよりも、行きたいとこある?」
甘宮は手櫛で髪を整えながら、問いかけた。
「……あれとか?」
周囲を見渡してから、とある教室を指さす氷川。
「へ?」
甘宮は目を丸くしてしまう。そこにはお化け屋敷の催しがあった。
○お化け屋敷
甘宮の目の前で、急に壁から手が飛び出してくる。
「うぎゃああッ!」
段ボール等で作られた簡易的なお化け屋敷で、甘宮は叫び声を上げた。
「まさか、こんなに怖いのが苦手だったとは……」
氷川は全く驚かずに無表情。甘宮のゆっくりしたペースに合わせて歩いていた。 白い布を被った女子大生が、唐突に現れる。
「あべべべべべべっ!」
口から魂が抜けるくらいに驚く甘宮。思い切り氷川に抱き着いた。
「――んっ!」
氷川は無表情で歩いていたものの、抱きしめられて一気に身体が紅潮する。
「あの…甘宮くん?」
「あがが、がっ」
怖がりながら、夢中で強く氷川に抱きつく。
「ちかいっ…ちかいよぉ……」
怖がる甘宮を連れて、照れながらもお化け屋敷を歩いて行く。
そんな姿を、お化けに扮した一人の女子大生が物陰から見ていた。
「学園祭レベルのお化け屋敷で、すげえ怖がってくれてんじゃん……」
二人をジッと観察して、感嘆する女子大生。
「なぁ、みんな! ここまで来たら、最高に驚かせてみたくないか?」
周りにいたお化けに扮する女子大生たちに告げる。
「確かに……!」
全員がやる気に満ち溢れた表情に変わる。
「私たちの全身全霊をぶつけたい!」
「やろう! お化け屋敷の集大成を体験させてあげましょう!」
「きた! あの子たちよ!」
死にかけの甘宮と照れた氷川が、ゆっくりと歩いてくる。
「いくぞ……!」
女子大生たちが、身を屈めて物陰から飛び出す準備をする。
「今だ! うわ――」
飛び出すと、人差し指を手に当てた氷川がいた。こちらに目線を向けている。
「アタシ、恨んじゃいますよ……?」
甘宮にべったりと抱きつかれており、赤面しながらも凛々しい顔で言った。
そんな氷川に、ハートを撃ち抜かれる女子大生たち。
「成仏してもいいかも」
キュンとする女子大生たちを背に、二人はお化け屋敷を後にした。
○女子大の敷地内、外
キャンパス内を歩く二人。甘宮はヘトヘトになって歩き方も力ない感じ。
「ちょっと休まない?」
「そうだね」
休憩スペースを探して歩いていると、辺りが騒がしくなってくる。
「ミスコンが始まったみたいだぜ」
男性客が近くにあるステージに駆けていく。
「ミスコン?」
二人は顔を合わせて同時に言った。
○女子大の敷地内、外
ステージが設営されていて、たくさんの人が集まっている。ステージ上では、司会者の生徒がミスコンの進行しており賑やかだった。
「わ……すごいひと」
「賑わってるね」
二人は人の多さに気圧されつつステージを見学する。
「続いてのエントリーは、この方!」
司会者が次のミスコン参加者を呼び出す。
「え?」
二人は参加者を見て驚いていた。
「甘宮夏希さんです!」
夏希が登場した瞬間、周囲が盛り上がる。華やかなドレス姿でステージに立っていた。喫茶店で見た時とは違う、可愛らしくも大人びた雰囲気がある。
「お姉ちゃん、ミスコンに参加してたのか…」
「すてき……」
氷川が夏希に見惚れて感嘆の声を漏らす。
ステージの上で、笑っている夏希。
(たった一人の女性に、何グラムの魂が魅了されているのだろか…)
(その姿は、朧月みたいに温かく輝いていた)
「アタシも……あんなステージに立ちたいな」
夏希に釘付けになり、目を輝かせて言う氷川。
「じゃあ出る?」
「え?」
氷川が甘宮の一言に、不意をつかれる。
「半年後にウチの学園祭があるでしょ? ミスコンもやってるんだよ」
「そう、なんだ…」
明るい表情から一変、氷川の顔色は暗くなった。
「でも、この前まで満足に笑えなかったアタシがステージに立っても、さ……」
寂し気に笑う氷川に、甘宮が向き合う。
「じゃあ、ミスコンまでに誰よりも可愛くなろうよ!」
「素敵な自分を自慢しに行こう!」
無邪気な笑顔に、氷川は背中を押された気持ちになって頷く。
「うん!」
とても気合いの入った返事をした。
「でも、なんであんなに雰囲気が違うんだろ……」
「メイクじゃないかな。喫茶店で会ったときと、違う気がするよ」
甘宮は、自信なさげに答える。
「……じゃあ、笑顔の次はメイクを教えてよ」
「んー」
腕を組んで、難しい顔をする甘宮。
「私はナチュラルで可愛いから、メイクに関しては分からないんだよね」
「そうなんだ…」
少し残念そうに肩を落とす氷川。
「お姉ちゃんに教わろうにも、忙しそうだしなあ。普段は寮暮らしで会わないし」
「誰かメイクに詳しい人いないかな」
頭を悩ませる甘宮の近くを、一話で出てきたツインテールの女生徒が通り過ぎていた。