ライン随想録 観光立国・ニッポン
1997/8/14 ライン随想録 スイス・バーゼルレポートより
随想録
国外からの観光客をたくさん日本に誘致するよう努力したらどうかなどというと、日本では笑い出す人が多くいるのかもしれない。
経常収支の黒字がたまりすぎて困っているときに、外国人の観光客がたくさん来るようにする事は、大事な事ではないのではないかという論点である。
昨96年一年間の日本人の海外渡航者は、1600万人を越えたと言う。
今年は、8-9月の2ヶ月だけで310万人に達するらしい。
これに対し、海外から日本にやってくる旅行者は年間約380万人くらいで、過去30年間ほとんど増えていないらしい。
内訳は韓国からが約100万人、台湾72万人、アメリカ59万人くらい であるが、日本からアメリカに行く旅行者だけでも(ハワイとグアムが多いのかも知れないが) 年500万人に上ると言う。
ワインとグルメの国フランスでは流入する外国人旅行者は合計で年6,000万人に達するらしい。
わたし自身がヨーロッパ各地やアメリカ、アジアを頻繁に旅行し、様子をみてきた経験から言うと、日本および日本人は外国からの観光客によろこんで来ていただけるような国づくり、雰囲気つくりをしないと、21世紀には世界からつまはじきにされてしまうような気がしてならない。
観光などどうでも良いと言う考え自体が、ほかの国のひとを、また他の人を魅了する努力をおこたっていることに他ならない。
なぜ、日本人がアメリカやフランスに行って楽しいのだろうか、またなぜフランス人やアメリカ人が日本に来て楽しくないのだろうか?
円高で日本の物価が高い、ホテル代が高い という側面だけでは説明ができないだろう。
所得水準の高いひとはそれだけの価値があると思えばよろこんでお金を使う事も事実なのである。
何人かのヨーロッパの人にまたアメリカの人に、旅行先を日本にえらぶことをどう考えるか聞いてみた事がある。
当然、ひとにより異なり、ケースバイケースであるが、シャモニー・モンブランに近い観光地、フランスのアヌシーで聞いたホテル従業員の女性はアジアには良く行くが日本には行っていないと言う。
なぜと聞くと、イメージが良くないと言う。
フランスのテレビで雪の中を幼稚園児を裸にして、スパルタ教育をしている日本特集の番組を見たと言う。
それに戦前の日本軍の暗いイメージがなんどもこびりついて、楽しくないところという印象が強いと言う。
アメリカの人は、日本は工場ばかり多くて、観光に適するところは少ないのではないかと言っていた。
官民あげてのPR下手、戦後50年以上経っているのに、悪いイメージの日本を払拭できずにいることを気づいていない、ということが事実であればゆゆしいことのような気がする。
日本では「桃梨いわざれども、その下自ずと径をなす」といった、思い入れがある。
黙っていても自分できちんとしていれば、ひとはいつかはきっと分かってくれるという期待感である。
しかし、今後は雑誌、新聞、テレビ゙、放送などのマスメディアを総動員して日本のイメージを引き上げるべく間断なき努力をすることが必要なのかもしれない。
たとえば、日本のシンドラーともいわれた、「杉原千畝公使」の話などは、とりあげて映画化する会社はでてこないのだろうか。
また、最近聞いた話だが、明治時代に帝国ホテルを設計した「アラン・ライト」は、日本の建築様式を西洋建築にとりいれた建築家として、知られており、その後ヨーロッパの近代建築にも大きな影響を与えたと言う。
こうした人の伝記なども詳細にたどる必要がありそうだ。
浮世絵と印象派の関係も面白いに違いない。
スイスでは盆栽、水石の愛好家が毎年、日本ツアーに出かけている。
華道の愛好家にも日本訪問はたまらないものらしい。
結局、日本文化の発信が対日旅行を魅力あるものにするようだ。
タイのバンコックになんどかいったことがあるが、わかいひとに日本旅行が人気が出ているらしい。
雪山を日本で始めてみて、感動したといった話を良く聞く。
台湾からの観光客には黒部アルペンルートが人気を呼んでいるらしい。
東京ディズニーランドも多くのアジアの人に好まれているようだ。
距離的に遠い、アメリカ・ヨーロッパからの観光客誘致よりも、近隣のアジアの国ぐにからのお客を大事にしたほうが、これらの国のひとの所得が急速に増えているので、手っ取り早いのかも知れない。
別府や雲仙の旅館・ホテルは韓国からのお客の誘致に力を入れていると言うが、良い考え と思う。
すでにこういった努力は始まっているらしく頼もしいかぎりである。
結局、最近では日本のひとが多く海外旅行にいくので、外国から日本への観光客にも関心が高まっているようだ。
これを日本での外人観光客歓待運動に結びつけていきたい。
スイス最大の観光地、ルッツェルンでは外人観光客に対する一声運動というのが盛んである。
カップルが片方一人だけの写真を撮ろうとすると、二人の写真を撮ってあげようと、すぐに地元のひとがよってくる。
地図を広げていると、どこに行くのかと声をかけてくれる。
日本でもアジアなどからの観光客に一声運動をと、地方自治体が声をかければこれらの人々の日本滞在がより楽しいものになると思う。
日本観光 が楽しかったという、口込みが最大のPRのように思うが、いかがなものだろうか?
外国からの観光のひとが日本を楽しんでいただいているかどうかと言うのは、日本人の日ごろの生きざまがどうあるかと言う事と密接にからんでいるものらしい。
たとえば、アメリカではどこに行ってもフレンドリーなひとが多いと聞くが、これはアメリカでは周りの人から好かれ、ポピュラーであるということは、即、パワーに結びつく。
そのよい例が、直接に投票できまる合衆国大統領であろう。
みな子供のころから、まわりの人にナイスになり好かれようと、間断なき努力をしている。
フランスの町々、村むらも花など飾り、印象よく多くのひとに見てもらおうと常に競っている。
個人のお化粧も、着るもののファッションもその一環ではないだろうか。
日本の国は、村は、都市は、そしてわれわれ一人ひとりは他のひとから好かれようといった、そのような血のにじむような努力、工夫を何世代にもわたりしてきたのだろうか。
観光立国・ニッポンといっても多くの考えさせられる課題を含んでいるように、思えてならない。(以上)
老齢プログラマの所感
随想録の1997は、訪日外国人旅行客増加が望まれるも、まだそれほど多くはない時代でした。
その15年後には、こんなに外国人観光客が多くなっています。
隔世の感があります。
外国人の日本に対するイメージは、当時とは大きく変わっているでしょう。
記事を読みながら数字を見ると、感じることがあるのではないでしょうか。
また、観光立国・ニッポンの考えさせられる課題も当時とは違っているように思います。
補足
上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。
ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。
【ライン随想録】
ライン随想録 観光立国・ニッポン(本記事)
ライン随想録 ロンドン・ヒースロー空港
ライン随想録 QE2航海記・その3、豪華船のあらましと船上セミナー
ライン随想録 QE2航海記- その2(大西洋上およびスイスから)
ライン随想録 クイーン・エリザベス二世号航海記- その1
ライン随想録 内なる国際化
ライン随想録 欧州人の休暇の取り方
ライン随想録 欧州盆栽事情
ライン随想録 ビジ・カジ
ライン随想録 旅行、お好きですか?
ライン随想録 たまごっち パート2
ライン随想録 結婚まえの同居
ライン随想録 外国語学習と日本人
ライン随想録 イギリス人とフランス人
ライン随想録 ちかごろ・みやこではやるものータマゴッチ
ライン随想録 最後の授業
ライン随想録 海外日本食事情
ライン随想録 荷物なくしたことありませんか
ライン随想録 フランス・リモージュ地域
ライン随想録 駅前・放置自転車
ライン随想録 インターネットと私(その3)ブラウザー
ライン随想録 インターネットと私(その2)電子メール
ライン随想録 インターネットと私(その1)概況
ライン随想録 ヨーデルテープありますか
ライン随想録 危ない目にあったことありますか
ライン随想録 スイス・ドイツ語
ライン随想録 人の行く裏に道あり花の山
ライン随想録 円高はこわくない
ライン随想録 規制緩和本当にお好みですか
ライン随想録 中世都市バーゼルの路面電車
ライン随想録 エジプト旅行と体調
ライン随想録 ごみ処理とリサイクル