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ライン随想録 欧州盆栽事情

ライン随想録 97.3.15 井浦幸雄

随想録

ヨーロッパのスイスやドイツで盆栽が静かなブームとなっているというと驚かれる方が日本に多いであろう。
わたしが初めてスイスにきた1989年のころバーゼルの植物園で 「盆栽展示会」 があると言うので行ってみた。
近在の愛好家が育てた逸品ぞろいで、 松あり、けやきありでたいした物であった。
直ちに、スイス・ドイツ盆栽クラブに入会した。
最近では、一部の好事家から一般のひとに徐々に浸透しているらしく、 あちこちの園芸ショップ、 スーパーマーケット、展示会の一角に盆栽コーナーがオープンしてきている。
人口18万しかないバーゼルでも、ハルト・シュトラーセに専門の盆栽ショップもオープンした。
一鉢5万、8万円相当の盆栽がおいてあり、結構売れているらしい。
バーゼル近郷ドイツ、ヴァイル・アム・ラインのデーナーという園芸ショップでは、 4メートル四方の盆栽コーナーがあり、 盆栽、 はさみ、東洋風植木鉢がところせましとおいてある。
商品の回転も悪くないらしい。

仲間に盆栽のことをきいてみると、知っている人もかなりおり、子供が夢中になっていたり、女の人のファンも多いようである。
支持層の幅が広いことには、驚かされる。
日本では盆栽は中年、 初老、老人の男性のものと決まっているのと大いに異なるようだ。

わたしが盆栽に興味があるというと、みな可笑しがる。
家内は 「ボンサイなど、 老人趣味で似合わない」 と言う。
家内の友人のあや子さんは、外国に長く居る井浦さんがボンサイ、ボンサイというと、なにか組み合わせが可笑しいと言う。
それにもかかわらず、 盆栽の持つ小宇宙、 小さな自然には魅力を感ずる。
オフィスにも苔の蒸した25cmくらいの岩にリサイクルの水を通し2、3本の植物をあしらって、盆栽まがいのものをつくってある。
家には、ベランダに4、5鉢の手製盆栽が育っている。
いずれも園芸ショップなどで、割安でもとめてきた松などの小さな木を、はさみ、針金で盆栽めいたものに仕立てている。
いずれも原価10フラン、20フラン、 (1千円、2千円相当)のもので、高価な盆栽は買わない。
それには、理由がある。

今から20年も前になるが、 アメリカのワシントンDCから、4年ぶりに日本に帰ったころのことである。
持ち帰った外車のフォード・カプリに乗り、サングラスをかけて富士山麓にドライブに行った。
道端に、盆栽をたくさん並べた販売店があるので立ち寄ってみた。
いろいろ見て、枝振りの良い松の盆栽1万円と言うのが気に入り、これをくださいと言った。
おやじさんが松とわたしの顔を見比べていたが、「お客さん、こちらの1500円のほうにしなさい」と貧相なひょろひょろの松を勧めた。
売ってくれなければ仕方ないと思い、 1500円の貧相な松をもとめてきたが、案の定水遣りを忘れて、これを枯らしてしまった。
盆栽屋のおやじは先刻承知で、この若造は十分手入れもできないので安いものでかまわない、丹精込めて育てた盆栽をすぐに枯らしてしまう人には渡すことができないと考えたのだろう。
今は安い盆栽を大事に丁寧に育てている。
当然、松などは、冬に強く一年中戸外にだしてある。

スイスやドイツの器用なひとは盆栽を巧みにそだて、 実に良いものに仕立てている。
もちろ日本や、台湾から、 先生を呼んで講習会を開催したり、日本に見学、研修にもいっているが、自分たちのそばに自生するアルプスの松柏をボンサイに仕立てたり、 高山植物をあしらったり、 現地の植生に適応した仕立ても工夫している。
盆裁的なもの、生け花のようなものは、必ずしも東洋、日本の独占物ではなく、多かれ少なかれ、ヨーロッパでも存在したようだ。
ホテルの入り口、廊下に飾られた、アマリリスの花 その他の植物はいけばなの感覚でまとめあげられている。

考えてみると、ヨーロッパには実にたくさんの東洋からの影響が浸透している。
陶器はチャイナと言われたように、 東洋からのものであったし、古くは、紙、 羅針盤 火薬も中国からもたらされたものであったらしい。
新しくは、カラオケ、ウォークマン、アニメに、セガ・任天堂のゲームまでが、ヨーロッパに深く浸透している。
モスレムもアラビア数字に代表されるように、大きな影響をヨーロッパ諸国にあたえている。
盆栽が浸透していくことくらいは多くの文化交流のごく一部に過ぎないようだ。

日本では、日本や東洋の国々が一方的にヨーロッパ、米国から、科学技術、宗教、教育、制度を学んだ(または押し付けられた)ような印象を持っている人が多いように思うが、ヨーロッパの人々は相互のインターアクションのもとで文化、文明が進展していったように考えているのではないだろうか。

ちょっと、話は変わるが、 柔道 JUDOのように、国際的になってしまったものについては、本家の意向とはなれて、 カラー柔道着を採用されても文句をいうべきではないだろう。
イッポンとか、ユウセイとか、日本語がいまだ使用されていることに密かな喜びを感ずる程度で良いのではないだろうか。

俳句もHAIKU・POEMと呼ばれ、 英語での短い時が多くの人に愛好されていると聞く。
これも、カラオケ同様、その国の言葉で楽しむことができるもののようだ。..

盆栽、 生け花、茶道、 カラオケ、ゲーム (まもなくデジタルペット、 たまごっちも)など、 日本で創造されたり、改良を加えたり、より高い水準のものに高めたりしたものが、 多くの国の人に評価され、 生活を豊かにしたり、楽しみを増やすということは想像するだけでも心楽しい。
これらは、アメリカのディズニー、ハリウッド映画、はたまた、フランス、 イタリアのファッションに匹敵する文化として、日本からの貢献として、受け入れられるものと考えてよいのであろうか?・・

日本では、盆栽は一部マニア向きで、 若い人にはそっぽを向かれているのでしょうか。
また、アメリカ合衆国、イギリス、ベネルックスなどの状況はいかがでしょうか。お分かりの方はお教えください。・

老齢プログラマの所感

前世紀末には既に、欧州は盆栽ブームだったのですね。
私も会社やnoteなどのお陰で、忙しい老後を送っています。
盆栽などは繊細で、時間の余裕があってきめ細かに面倒見ないと育てられないですね。
だから、日本では隠居老人の趣味だったのでしょう。
しかし、盆栽を愛でる気持ちに年齢はないように思います。

確かに若い頃は「日本や東洋の国々が一方的にヨーロッパ、米国から、科学技術、宗教、教育、制度を学んだ(または押し付けられた)ような印象を持っている」たように思います。
でも年を取って、今はそのような意識はなくなっています。

盆栽から園芸に広げてみると、何が好まれるかには、流行があるようです。
AIが言うには、最近はサボテンが若い人に好まれているとのことです。
我々の年代では想像できなかったが、自分の年齢という概念のないAIが今の若者の植物の好みを教えています。
植物学者の友人の「AIは無くした感覚を取り戻してくれて役に立つ」という言葉が正しいAIの理解かも知れないと思ったりします。

補足

上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。

ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。


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