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ライン随想録 欧州結婚事情

1997/9/13  ライン随想録 スイス・バーゼルレポートより

随想録

約8年間フランス語を習っているマダム・ベライシュの一番上の娘さんがこの6月に結婚した。
28歳で地元の州立病院・カントンシュピタルの女医さんである。
お相手は弁護士で33歳との事であった。
しばらく前に、アメリカのボストンで購入した、「母がよく言っていた事」(My mother always used to say)と言う本をマダム・ベライシュに見せた事があるが、大変気に入ってくれ、娘に与えたいと言う。
彼女も一冊買いたいと言っていたが、なかなか手に入らないので、「わたしのコピーを結婚のお祝いとして、娘さんに差し上げて下さい」と贈呈した。
9月になって、娘さんとご主人の二人の結婚式の写真が送られて来て、「お祝い」の品をありがとうと、こころのこもった丁重な礼状が添えられていた。

その写真とお礼状を見せながら、マダム・ベライシュに当地の結婚式事情を聞いてみた。
彼女らはフランスからスイス・バーゼルに移り住んで30年近くになるが、こちらの結婚式はカップルによりさまざまであると言う。
言語も、宗教も、場合により国籍も違う人が30万人近く住んでいるバーゼルのことなので、平均的な姿と言うのは絞り切れないようだ。
ドイツ人、ドイツ語系スイス人のようなゲルマン系のひとはかなり金持ちであっても、簡素な結婚式を挙げる人が多いと言う。
フランス人、イタリア人といったいわばラテン系のひとは親族をたくさん呼んで、規模の大き目の結婚式をあげることが多いと言う。
親族だけで、教会などで結婚式を挙げ、レストラン、その他で披露宴パーティーを行うことが多い。
そういえば地元のお城・レストランなどで結婚式をあげているひとをよく見かける。
おなじ兄弟姉妹でもそれぞれのカップルの考えで千差万別であるようだ。
マダム・ベライシュも二番目の娘さんはロンドンで結婚し、内輪だけの式となると言っていた。

わたしの職場でスイス人、ドイツ人、イギリス人などの若い仲間が結婚をすると、式は身内だけ20-30人くらいで、教会で挙げ、近所の人や職場のお仲間はコクテイルだけと言うのが多いようである。
職場の仲間には、業後仕事場または、会社のスポーツクラブなどで、新婚のカップルがドリンクをオファーし、仲間がご希望に添って贈り物をすると言う形になる。
50-60人の人が、集まってもドリンク、スナックだけ、かつ会社の施設なので5-6万円前後の出費、それと同じくらいの価格の贈り物をもらえるので“とんとん”でまかなえるようだ。
コクテイルの2-3週間まえから、カードと「贈り物用寄附」を募る袋がまわされ、ひとり1-2千円相当くらいのコントリューションがなされる。
コクテルでは直属の上司ひとりだけが、みなを代表して贈り物を差し上げ、ごく手短にひとことだけお祝いをのべ一時間くらいで終わる。

教会の式も簡素で、若いカップル、両親はそれほどの出費とはならないことが多いようだ。
祖父母、叔父叔母のような親族は、若いカップルの「希望リスト」を見ながら、新所帯の家具、電気製品などを寄附させられるものらしい。
われわれ職場の仲間もその「リスト」の一翼をになう事になる。

わたしも日本の結婚式に何回も出させていただいたが、これまでのところ日本では世間並みを維持するための、社会的なプレシャーが若いカップル、その両親にかかっていたような印象を持った。
最近では日本でもいわゆる地味婚と称して、ホテルや結婚式場を使わず、近くのありふれたレストランで小人数の格安披露宴を上げている人が多くなっていると聞いているが、バラエティーに富んだ祝い方が増える事は結構なのではないかといつも思う。

結婚式だけでなく、冠婚葬祭のすべてにわたり、お祭りの寄附などに、また日ごろの人付き合いに日本ではお金がかかることが多いような気がするが、これはなぜだろうかといつも思う。
それでは逆にヨーロッパではなぜそれほどお金がかからないのかと思う。
これには、世間並みと言った規範とお金の集めかたに違いがあるようだ。
たとえば、日本では大手会社の部長さん、課長さんがホテルでの部下の結婚式に呼ばれると、世間相場として、これくらいのご寄附は当然といった、暗黙のプレッシャーがはたらいている。
受付で、お祝儀ぶくろを出すときに、表に名前、裏に金額を書かさ れる。
これがないと、受け付けが補記したりする。
少ない金額を出しにくい雰囲気がある。
部長さん、課長さんといっても、実は内情に大きな差異があり、会社からこうした交際の費用に補助が出ているかいないか、自身の扶養家族にお金のかかるか、かからないかなど、それぞれに異なっている。
ポストから言ってこれくらいという圧力には困っている人が多いに違いない。
今スイスの国際機関につとめるわれわれの場合、職場の結婚式コクテルの際には、寄附は匿名で、それぞれの人の貢献金額は一切分からない。
これにより、親しい人には大目に出すが、親しくない人にはうんと少な目と言った、濃淡が付けられる。
こどもの多い人は上役でも少なく、独身貴族はやや大目に出す事も自由だ。
全体を見てみると、いつも大体同じくらいの金額が集まっている。

わたしの前の日本の職場のお仲間に部下の結婚式で50人以上あつまる大規模な結婚式には、列席しないという主義を貫きとおした人がいた。
一金、5千円なりのご寄附は披露宴に参加しなくとも出すのである。
おめでたい部下の式なのにと不満を言う人もいたであろうが、自分の考えをはっきり示すのはよい事と思う。

日本の結婚式披露宴がしだいに派手になっていった過程では、参列者のご寄附がかなりの部分これを支えると言った事情があったようである。
若いカップルもある程度ご寄附を計算にいれているに違いない。
これに対応するには、たとえば、15人呼ばれている同じ職場の仲間は総額でご寄附をしたい、ひとりひとりの貢献額は一切明らかにしない、それでもよいのならば、15人みなが参加する。
それが不満であれば、15人とも欠席とすると通告するのはいかがであろうか。
このときのひとりひとりの貢献額は自分で考え、適切と思う金額とし、一切他の人と情報交換しないし、他の人 の分は知りえない、というのはどうであろうか。
本人が式場を選定する過程からご寄附が必ずしも当てにならないと言う事を前もって含ませておく事が大切のようである。

この点は日本だけでなくアジアの国くにに共通しているのかも知れないが、冠婚葬祭にお金をかけるのは、人の目を気にする社会と、自分は自分、人は人という、いわば個性主義の社会との違いに収斂してくるのかもしれない。

自分は経済的に豊かではないので、結婚式披露宴によばれた際には、3000円しかお祝いは出せません、それでもよければ是非声を掛けて下さい。
お香典は2000円しかだせません。
このようにはっきりといえる人が、ひとりでも増えてくるのが、これからの日本で望ましいのではないかと思うのだが、いかがなものだろうか?

老齢プログラマの所感

この年になると、結婚式への参加はなくなり、葬式ばかりとなります。

結婚式と言うと、数年前に中国人の友人からの招待されたことがあります。
式場は北京、出席者は500名ほどで10人のテーブルが50個になるそうです。
また、宿は提供できるが、相手をすることはほとんどできないといいます。
相手できないは当然ですが、500名と聞いて驚きました。
「特権階級だというわけではなく、近所では普通だ」と言いますが、さすがに普通だとは信じられません。
新郎新婦と親しい共通の友人に出席するのかと聞くと、出席しないというので、参加を断ることにしました。

井浦さんのお話では、ヨーロッパでは結婚の形式はかなり自由なようですが、中国では日本に比べても形式を重視する傾向があるように思います。
本年1月3日に結婚式を挙げた中国人から写真が3枚送られてきました。
「もっと送れ」と伝えると、大量の前撮り写真が送られてきました。
プロの写真家にこれだけ写真を撮ってもらうだけでも大変です。

井浦さんは、お祝儀についてかなり触れていますが、私の場合は近くに相談する人もなく、ましてや異国の話。
日本での習慣に合わせて、今後も友人であることを考慮して出しました。

補足

上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。

ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。


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