生命の起源 RNAワールド仮説を知っていますか?
初めに
生命の起源研究の最前線にいる市橋先生から「現状で私としては地球で生命誕生の確率は1だとはとても言えない状況」とのコメントがありました。
この意味を知るためには、RNAワールド仮説を知る必要があります。
原始生命はRNAワールドで誕生したという考え方がRNAワールド仮説です。
RNAワールドの地球での存在確率が地球での生命誕生の確率なのです。
RNAワールド仮説
RNAワールド仮説とは原始生命が誕生した様子を説明する仮説です。
生命の遺伝情報はDNAに保存され、DNAからRNAにコピーされ、RNAからタンパク質へと翻訳されて多様な化学反応を触媒します。
この多様な化学反応にはDNAとRNAとタンパク質が必須です。
原始生命が生まれた時からこのような環境があったとは考えられません。
ここで酵素の働きをするRNAであるリボザイムが見つかったのです。
これがRNAワールド仮説を最有力仮説にしました。
リボザイム発見者のトーマス・チェック、シドニー・アルトマンはノーベル賞を受賞しました。
RNAワールド仮説の大きな問題
WikipediaではRNAワールド仮説の欠陥を挙げています。
様々な核酸類似体の存在下で、これらがRNA特有の結合様式をとった根拠が無い
自己複製を行う RNA が発見された時、この説はより強固になる
問題というのは100塩基のリボザイムでは複雑すぎるのです。
戸谷先生は「リボザイムが地球で自然に発生する確率は0に近い」という計算になるとの論文を発表されました。
しかし、市橋先生と水内先生は、複雑なリボザイムではなく、20塩基の簡単な自己複製RNAを見つけました。
RNAワールド仮説の問題を解決したように思えます。
しかし、先生のコメントでは
RNAワールドを思い描く
想像力を働かせて、後期高齢者の頭中にRNAワールドを思い描いてみます。
46億年前の地球が誕生した頃、全球がマグマで覆いつくされていました。
40億年前、水蒸気が冷えて雨となり、海ができ始めました。
地上ではまだあちこちでマグマの噴火が起きています。
海中ではあちこちに熱水噴出孔ができています。
そこではいろいろな物質が自然に合成されます。
ときたま短い簡単なRNAができます。
簡単なRNAがお互いに繋がって長い鎖になります。
ある時、偶然にもそのRNAが自分自身を複製する機能を持っていたのです。
この自己複製RNAができて進化していく世界がRNAワールドです。
RNAワールドで現れたRNAは、サイコロを振るような偶然の産物です。
戸谷先生の自己複製RNAは100塩基ほどですが、市橋先生のは20塩基です。
偶然が起きる確率は拡大宇宙規模と実験室規模の違いです。
新しい自己複製RNAが現れると、今までの計算はやり直しです。
市橋先生からは新たな塩基の可能性を示唆されました。
RNAワールドと宇宙
隕石から多くの種類のアミノ酸が見つかっています。
イトカワやリュウグウからアミノ酸やウラシルが見つかっています。
先生のコメントに「地球で生命誕生の確率は1だとはとても言えない状況」とあります。
RNAワールドは地球だけに限定できる状況ではなさそうです。
生命の起源のビデオを見よう
Youtubeなどで様々な説を次のように分かり易く説明している。
いずれも自己複製機能を持つリボザイムが生命の起源だとしている。
公開時期とビデオ時間を表示してあるので、活用していただきたい。
NHK「全地球史アトラス 3.原始生命誕生 2017.6/4:10」
膜ができ(2:02)、自己複製機能を持つリボザイムができ(3:10)、生命の配列を複製する力を身に着けた。
Try 「高校生物 生命の誕生 進化2 1917.12/21:36」
コアセルベートという泡ができ(4:20)、自己複製RNA(11:50)ができた。
NHK「地球そして生命の誕生と進化 2020.4/1:05:17」
41億年前に脂質の膜に化学物質がつつまれて(9:17)、自己複製機能を持つリボザイムに進化(10:17)。
サイエンスドリームでは最も多くの説を説明しています。
「最初の生命はどこで生まれたのか? 2022.2/8:35」
コアセルベートという細胞の形になり(2:34)、リボザイム(7:16)ができ、自己複製RNAできた(7:20)というRNAワールド仮説(7:27)です。
「【奇跡】生命はどのように誕生したのか?最新技術による仮説4選2023.9/8:18」
4選とは自然発生説(0:46)、 RNAワールド仮説(2:39)、 パンスペルミア説(4:46)、 深海熱泉説(6:07)の4説です。
最後に
RNAワールドはこれからどのようになったのでしょうか?
どうやってDNAワールドになっていくのでしょうか?
ここからは素人の立場で、希望を含めて勝手に想像してみます。
自己複製RNA出現以降、わずかに自己複製RNAが多く現れ始めます。
自己複製RNA自身が触媒して自己複製RNAを作るからです。
市橋先生から「・・・複製の効率ははっきりいって悪いです」ですが、
その効率の違いは、わずかであっても宇宙時間では圧倒的な違いです。
先生のコメントには「そもそも原始地球でRNAの材料はほとんどないので、最初の自己複製体はRNAではない可能性も大いにあります(実は私も最初はRNAではないと思っています)」とあります。
この自己複製体はRNAでもDNAでもないXNAかも知れません。
鎖の部分がRNAでもDNAでもない、第3の構造なのです。
例えば、名古屋大学のPre-RNA world仮説です。
この分野は新事実が続々と発見されています。
今後の研究成果を注目して見ていきます。
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