ライン随想録 母親がいつも言っていたこと
1997/10/26 ライン随想録・スイス・バーゼルレポートより
随想録
母の言葉、それはいつも小言として聞いていたときは、うるさいなと思うものである。
それが、自分が30、40、50歳台になり、その母親もこの世からなくなっていたりすると、ある時ふと思い出されたりするもののようだ。
今日のこのライン随想は自分のはなしをしようというものではない。
みなさん、こころにふと浮かんできた、母親のひとこと、ほかのかたと分かち合っていただけませんか。
母親は子供にこびることはない。
そのひとこと、ひとことは、自分の人生から学び取ってきたことを、子供のために、良かれと思い、伝えようとするもののようである。
英国の本で、“My Mother Always Used to Say" というのがあった。
結婚についてとか、マナーについてとか、項目ごとに母親のひとことを分類してあったように記憶している。
その中に、「何か人に良いことを言えないときには、口をつぐみなさい」と、書いてあった。
ひとに、辛口の批評をすることはむつかしい。
相手が自分の批判を受け入れるだけのこころの準備をしているかいなか、察するのは極めてむつかしい。
打ち解けていない人から、批評・批判をされ戸惑った人も、多いに違いない。
面識のない人が交流することの多い、コンピュータ通信では、よほど用心してかからないといけないことが多いと思う。
たしかに、不特定多数と交信、交流するときには、「何かひとに良いことを言えないときには、黙るべきだ」というのが、正解のように思われるのだが、みなさんはどうお考えですか?
私の母親は、現在82歳、2男3女の母親で、神奈川県で兄貴の家族と上下階に住み、心身ともに壮健である。
兄弟・姉妹では、母親より先に死ぬことのないよう気をつけようといつも言い合っている。
母親の口癖は、「けっして人前で、自分の夫、妻、子の悪口、を言ったり、ぐちをこぼしてはならない」、というものである。
たしかに、母親が他の人に、家族のことを悪く言ったり、愚痴をいっているのを聞いたことはない。
どこでも問題を抱えていない家族などないわけであり、不平をいっていては、きりがないようだ。
5人兄弟の末娘で、12歳までに両親を亡くしているので、親戚の家に預けられたりして、苦労をしたらしい。
いくらつらいときでも、身体の不調を訴えたり、不平を言ったりしているのをきいたことはない。
さらに、われわれ兄弟が育つ過程で、PTAの役員や町内会のお世話を嫌がらずに、こなしていた。
80歳 を超える今も、PTAの役員の依頼はもうないが、老人会や近所のひとのお葬式のお世話などにいつも出かけている。
こうした母親の背をみて育っているので、われわれ兄弟は、すくなくとも私はいつも何かのグループのお世話役をいとわず手がけるようにしている。
余計なことをする、体力にめぐまれていることも、これと無縁ではあるまい。
「家のなかで、お茶碗やコップを磨いているだけでなく、外に出て、すこしでもみなさまのお役に立つことをしなさい」と、娘3人に言っていた。
家で、お茶碗や、コップがいつもピカピカであったような記憶はあまり持っていない。
先日、友人との会食の時に、「My Mother Always Used to Say」のはなしをしたところ、その友人は母親ではなく、かれの祖母がいつも幼稚園まで送ってくれ、分かれ際に、毎回、「良いお友達をたくさん作りなさいね」と、言ってくれたそうである。
毎日、いわれたので、頭の隅に残っていたが、しばらくしてその祖母がなくなるとすっかり忘れてしまっていたそうである。
しかし、あるとき、ふと記憶がよみがえり、祖母のひとことを深くこころに刻んで、毎日生きるようにしているとの、はなしであった。
あるひとは、義理の母親、のひとこと、「もっと、生活にゆとりのない人たちは、このような私たちの行動をどのようにみるのでしょうね」といって、無駄をいましめていたことが、印象にのこっていると話してくれた。
それは、母親、祖母、義理の母、父親、祖父だけでなく、恩師や友人の場合もあるかもしれない。
周囲のひとから、当然われわれはおおくのことを学ぶ。そのひとこと、ひとことを噛み締め自分の行動の指針にしているひとは多いに違いない。
あなたはどのような、母親のひとことが、こころに残っていますか?
おさしつかえなければ、われわれ、お仲間と分かち合っていただけませんでしょうか。
老齢プログラマの所感
井浦さんの考える母親の言葉のありがたさの本質は
「母親は子供にこびることはない。そのひとこと、ひとことは、自分の人生から学び取ってきたことを、子供のために、良かれと思い、伝えようとする」からのようです。
これが母親の言葉の価値の源泉ですね。
「このような言葉は、母親だけじゃない、もっと多くの人たちからあなたは受け取っている」のでしょう。
フェイクニュースの多いこの時代に、何が正しいのか信じるべき情報の選択は難しい。
しかし、あなたがいつも接している、あるいは接していた、信じるべき言葉が近くにあったのですね。
自分の母親を思い出すと、賛同できるかどうかはともかく、自分だけのために、本当に良いことだと信じて言ってくれた言葉だったような気がします。しかし、親不孝なことに、その言葉がはっきりと思い出せません。
でも、何かの機会にふと出てくるのかもせいれません。
補足
上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。
ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。
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