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ライン随想録 ヨーロッパの人たちの休暇の取り方

ライン随想録 1997/6/28 井浦幸雄 スイス・バーゼルレポートより

随想録

この週末(6月28-29日)から、スイスの多くの小、中、高校は夏期休暇となり、8月中旬まで、バカンス・シーズンとなる。
親も、同時に休暇 をとり、多くの職場では、半分から3分の2くらいの数のスタッフで通常の業務をこなさなければならない。
はたらく人たちの当然の権利とはいえ、職場を管理 する立場の人に、苦労の多い時期でもある。

通常の人は、契約にもよるが、年、4-6週間の有給休暇をとり、このほか、約5日程度の病気休暇を得ている。
夏に1-2週間、長い人は、3-4 週間の休みをとるケースが多い。
大体、一年のうち、全部消化する人がほとんどであるし、管理する立場の人も全部消化できるような人員配置を常に心がけるよ うにしている。
最近では、とくに金融機関では、事務の相互検証の観点からスタッフが2週間以上まとめて休むようにとの内規を作ったり、奨励しているところ が多い。

日本とヨーロッパの休暇の取り方も、最近では、それほどの差異も見られなくなってきたのかもしれないが、それにしても、日本では年次有給休暇を 返上したり、使い切れないで無駄にしたりする人が、まだまだ多くいるのかもしれない。
国民の祝日が日本の場合、スイスの2倍近くあり、それで代替できてい ることもあるだろう。
職場の人員配置で、とくに、中堅、幹部要員は休暇を取りにくいということもあるだろう。
しかし、日本で年次有給休暇が十分取れないの は、もっともっと根深い要因が働いているように思えてならない。

若い日本の女性スタッフは有給休暇を上手に使い、海外旅行などを楽しんでいると聞いている。
ほかのスタッフがなぜ、同様なことができないかとい うと、多くの職場で、休みの取り方、時間外労働のしかたに、昇進・昇格が微妙にからんでいると考えられているからであろう。
有給休暇の返上、手当てなしの 事実上のサービス残業が、会社に対する自己犠牲、忠誠心と受け取られ、これを多くするひとが、昇進・昇格に際し上のひとから覚えがめでたいとされているの ではなかろうか。
ヨーロッパの多くの普通の平均的なスタッフは、昇進・昇格のため自分の生活を犠牲にしたくないと 考えているようだ。
また、休暇は長い期間をかけ、経営側から働くものが勝ち取ったものとの権利意識が極めて強い。
それを反対給付も無しに、自分のほうから返上するなど、言語道断と考えているようだ。
日本の場合、ほとんど偉くなれることが保証されていない人までもが、 自分の生活の質を落として、休暇の返上などをしている。
日本の管理形態が実に巧みで、だれでも昇進・昇格できるような、幻想をふりまいているためなのであ ろうか?

日本の場合、必ずしも、偉くなりたいとばかり考えていなくとも、休暇を利用していない人がいるかもしれない。
個人の住宅環境が劣悪で、休暇を 取っていても、くつろがない、受入態勢のリゾート地も値段が高かったり、混雑したりしている。
海外に旅行に行くにしても、高価である、といった受け皿の問 題があるかもしれない。
確かに、ヨーロッパの場合、近場にそれぞれユニークな文化をもった国々があり、割安に楽しめる観光地がたくさんあるといった状況に ある。
それにしても、日本の人たちは今でこそ、海外渡航1600万人の時代といって、熱心に旅行に行っているが、レジャ ー、バカンスに対する取り組みが今までは中途半端で、適切な受け皿を作り上げるような働きかけ、努力をしてこなかったのではないだろうか。
旅行、休暇も人 生の重要な一こまで、仕事に取り組むと同じような、熱心さ、意欲をもって取り組まなくてはならないように思う。

フランスで約一ヶ月にも及ぶような長期のバカンスを多くの人が取るようになったのは、第二次大戦後の労働者過剰からワーク・シェアリングの観点 があったと聞いている。
確かに、みなが長期の休暇を取ると、雇用は少し厚めにしておかないと回らない。
日本の場合、能率を上げる観点から雇用をぎりぎりま でしぼり、休暇をみなが十分とらないことを前提にシステムが組まれているような気もする。
豊かな生活をするには、若干生産性を落としてでも、幹部職員も含 めて、少なくとも全員が有給 休暇を年内に消化するくらいの人員配置が必要となってこよう。
それには会社の中の無駄な作業は一切省き、資源を効率的なところにのみ振り向けるといった工 夫が必要になってこよう。
会議を極力切りつめ、電子メールで置き換える、転勤などの単なるあいさつは一切止める、電話での交渉を増加させるなどが最低限必 要であろう。

受け皿としてのリゾートも日本は費用が高すぎるといった批判がある。
ホテルは一泊か二泊が通常で、一週間単位の滞在を前提にしていない節があ る。
これも多くの人がより長期の休みをとれば、情勢が変わってくるかもしれない。
自分の家での休暇と一、二泊のホテル滞在と組み合わせる工夫もあってしか るべきであろう。

私の勤め先のヨーロッパ人の仲間に長期の休暇の過ごし方を訊ねると、その人のライフスタイルにより、当然異なってくるが、たとえば、7-8月に 3-4週間の休みを取った人は、家族連れで両親、兄弟、親類と近くのリゾートに行くか、両親のセカンド・ハウスに子供連れで、長期滞在し、ときどきホテル やレストランに食事に行くといった過ごし方をしている。
両親も息子、娘夫婦に、孫たちがきてくれ、若干の出費があっても楽しいということだろう。
2-3 年、3-4年に一度は、ヨーロッパ以外の地域に海外旅行に行く機会もあるが、若い夫婦で体力もある人でないとこれもまれであ ろう。
家でペンキ塗りをしたり、庭仕事をしたりといった休暇の過ごし方をするひとも少なくない。

私ども夫婦の場合はアメリカ・ワシントンでの7年間は、車で近くのリゾートに良く出かけた。カナダはホテルも割安で見るところも多いので、楽し かった。
アメリカ国内も東海岸の都市群をまわることで、いろいろ見るべきものが多かった。
1989年にヨーロッパに来ていらい、仕事、休暇で、日本に帰る とき以外は、ヨーロッパの国々、スペイン、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリア、に地元スイスの各地を訪れた。
東欧の国々もあらたな魅力がある。
し かし、年配になってくると、長期の休暇であちこちにいくこともも次第に負担になる。
今年の6月には自宅で休暇をとり、ゴルフや、家の手入れ、片づけもので 一週間過ごした。
なかなか良いものだと思った。

仕事と並んで、休暇も人生そのものなので、自分のライフ・スタイルになじんだ、無理のないものになってくると思う。
仕事の段取りと同様、休暇も かなり前から、準備をしておくことが、大切なようだ。
自宅で過ごす休暇はともかく、予約が必要なところは事前に準備が必要であろう。
仲間と休暇の調整が必 要な部署では、3-4か月から、場合によっては5-6か月先の調整が必要であろう。

最後に、病気休暇のしくみ、産休、軍事訓練の休暇について見てみたい。
中央ヨーロッパの多くの国では、5日ほどの医者の証明書なしの休暇が認め られている。
日本ではなじみがないが、朝起きたときに、どうも体調が悪い、風邪気味だ、とかいったときに、便利なようだ。
もちろん、医者の証明書があれ ば、より長期の病気休暇が認められる。
産休は一年程度が認められるし、軍事訓練の休暇はスイスではすべて雇用主負担の有給休暇の扱いとなる。

また、近隣の州、地域の学区では、夏休みなど学校の休暇の始まる時期、終わる時期を、3-4日から、一週間程度、意識的にずらし、道路の渋滞を さける、工夫をしている。
また、スイス・オートモビル・クラブの月例ニュースレターを見ていると、夏場の道路の混みがちな曜日と時間が明記してある。
とく に混雑が予想される、ドイツ・スイスからイタリア方面への通過道・ゴッタールトンネルでは、金曜日の午後と、土曜日の午前中は南向き、イタリア方面への通 行は避けるようにとの指示がなされている。
混雑を避け、たのしい休暇を過ごすには工夫と事前の情報集めが不可欠のもののようである。

老齢プログラマの所感

「旅行、休暇も人 生の重要な一こまで、仕事に取り組むと同じような、熱心さ、意欲をもって取り組まなくてはならない」が刺さります。
かつての職場では、有給休暇を多く残したままになりました。
井浦さんより少し後の世代だが、高度成長とコンピュータ自由化の不安の時代に就職した時代には、職場に休暇なんて考える空気はありませんでした。

2度目の職業人生は毎月1週間の休暇があります。
長期休暇は、2か月分を連続して休んでいます。
休日はどう過ごそうかをたっぷり考えて良い生活です。
しかし、若い時こそ小さい家族がいてゆっくりできたらよかった、若いからこそできた体力を使う旅がしたかった、などと思います。
若い時に、今のようなたっぷり休める制度があったらと思います。
反面、コンピュータ輸入自由化に対応し、日本の高度成長時代を乗り越えてきたことに誇りも感じています。


補足

上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。

ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。


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