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ライン随想録 アメリカ人とヨーロッパ人

1999/02/20 ライン随想録・スイス・バーゼルレポートより

随想録 

日本で「欧米」ではと言うことが多いが、「欧米」というのは極めて大き過ぎるくくり方だなとこの頃良く思う。
タイトルに「アメリカ人とヨーロッパ人」としたが、「ヨーロッパ人」というのも大き過ぎるくくり方かなとも思う。
一応、アメリカ合衆国に住む人、とユーロゾーン(ユーロランド)に住む人、というと分かりやすいだろうか。
ヨーロッパ人とは別の言い方をすれば、西側ヨーロッパ、 独、仏、伊、ベネルックス、スペイン、ギリシャなどに住む人々ということになるのだろうか。
もちろん、英国、アイルランドに住む人々もヨーロッパ人に加えても差し支えないだろう。
こうした大きなくくりの話しはどうしても、「群盲、 象をなぜる」と言った類の話しになってしまう。
1970年代にワシントン勤務をしていたころ、夏休みに約3週間のヨーロッパ・パッケージ・ツアーに参加した。
ロンドン、パリ、ルッツエルン、ローマ、 フィレンツェ、べネツィア、マドリッド、リスボンを駆け足で巡った。
このときはわれわれ夫婦の始めてのヨーロッパ旅行であった。
当時は30才台前半で、何もかもが珍しかった。
その後ヨーロッパに来て10年も住むようになるとは、想像もしていなかった。
アメリカ人観光客約30人のグループに我々だけが日本人として参加したもので、彼らのヨーロッパに対する反応をかいま見る感じがして興味つきなかった。
アメリカ人の大部分を占めるヨーロッパ系アメリカ人(ツア ーグループのほぼ全員)にとっては、ヨーロッパはかれらの父母・祖先が住んでいたところ、当然こころのふるさととして大きな割合を占めている。

3週間行動をともにしてくれた添乗員のジョバンナは「ローマ人はわたしたちに法律を与えてくれたが、今のローマ人は一番法律をまもらない」と嘆いていた。
ツアーの一行にやや年配のOLがいたが、「フランス人には農民が多く、これらの人々のことをフレンチ・フロッグ(カエル)と言うのよ」と何度も教えてくれた。
口がパクパク良く動くので、この人こそ「フレンチ・フロッグ」ではないか と想像したのを覚えている。

アメリカ人はヨーロッパは父祖の地ではあるが、経済的にはおちぶれて、家の値段、食料品の値段も高く、大学にいけない若い人も多く、今ではアメリカ、アメ リカ人のほうが優位に立っていると思っている。
一方ヨーロッパ人はアメリカには見るべき文化も無く、食べ物もまずく、ひとびとは浅薄で、単なる貧しい移民の国ではないかと思っている。
当然、個々人により、地域により、家族により異なっているのだが、それぞれが相手に対し、羨望と軽蔑が微妙にからまっているのが、現実のようである。

ここで忘れてはならないのはヨーロッパの多くの国々のひとは、広範にアメリカ人と縁戚関係で結びついていることであろう。
これは日米、日欧間をはるかに上 回るであろう。
大体どこのヨーロッパの国でも二人に一人くらいは兄弟、姉妹、 いとこがアメリカに暮らしている。
大学、大学院のレベルでアメリカ人とヨーロッパ人が相互の地域で教育を受けたり、またビジネス上のパートナーとして交流 している範囲は日本人の想像を超えるものがある。

アメリカ人とヨーロッパ人は今の世界で、政治面、経済面、社会・文化面でもひとつの主導的な軸を形成していると言えるだろうが、ここにはアングロサクソン (米・英)と欧州大陸主要国(フランス・ドイツ)との間で微妙な対立が見え隠れする。当然のことながら、米国・英国の間には独立戦争以来の激しい対立の歴史があり、共和国(リパブリック)としての政治形態上は米国はむしろフランス に近い。
王制が残っている英国はむしろ、ベルギー・オランダと親しみを感じているのかもしれない。
欧州大陸主要国のフランスとドイツの間には第一次・第二 次大戦時、またそれ以前にも激しく戦いつづけたと言う苦い過去がある。
それでも、現在は欧州連合の軸の二大国として押しも押されぬ緊密な関係を築きあげて いる。
現在のこの二カ国の結びつきの強さは遠くから展望している日本人の想像 を絶するものがある。
軍事面でも独仏連合の軍隊がすでに発足していると聞く。
また、99年1月から発足した「ユーロ」はフランスとドイツの協力無くしては 実現しなかったと思う。
良く知られていないが、フランス人のエリート層にはド イツ語を学んだひとの比率がかなり高い。

米国と英国の結びつきには表面的に見える以上に強固なものがある。
それは政治・軍事面での強い結びつきに現れている。
英国は暗号解読の技術蓄積の面で米 国をはるかにしのぐものを持っていると聞いている。
アメリカとイギリスの指導的立場にある人々は教育、文化、情報の面で大陸諸国の人々とは一味ちがった強い結びつきを持っているように思えてならない。
このアングロサクソンとフラン コ・ゲルマンの対立は経済、政治、文化、教育、情報などの各分野で、現在の世界に微妙なかげを投げかけているように思える。

英国が欧州連合に加盟したときに、ベルギー人の友人に「なぜ今になって英国は 欧州連合に加入したのかね」と聞いてみた。「多分英国はアメリカとの結びつきを保ちつつ、欧州としての顔ももちたい。
両方の良いところをとりたいのではな いか。
ケーキを手に持っていると同時に、食べてもしまいたいと考えているのではないか」とこのベルギー人は話していた。

もうひとつの側面として、アメリカ人とヨーロッパ人を分ける最大のちがいは 「歴史と言語」ではないか、と話している人がいた。
一面の真理ではないかとこの頃考えるようになっている。
アメリカにはわたしは累計で8年いたが、地域により言語としての「アメリカ」にかなり違いがあり、東海岸、西海岸、中西部、 南部によりそのアクセント・方言にはかなり差異がある。
しかし、カナダ・ケベックのフランス語、南カルフォルニアのスパニッシュを除けば広大な北アメリカ大陸は英語・アメリカンの統一言語地域という世界でも例をみない特異な言語地域ということになる。
それにここの大部分の住民は英語・アメリカン以外の言語をほとんど理解しない。
ヨーロッパでは英国でも教育を受けた人はかなり高い割合でフランス語、ドイツ語を理解する。
ドイツ、フランスでも高い教育を受けた人はみな英語をかなり上手に話す。
独仏国境をながれるライン川流域は古くからフランス語、ドイツ語のバイリンガル地域である。

歴史については、当然アメリカは浅く、ヨーロッパは長く、複雑だというはなしになるのだが、アメリカ東海岸の独立戦争・勃発の地として知られる「レキシン トン、コンコード」地区に行って驚いた記憶がある。
200年すこし前の独立戦争・発端の歴史が一こま一こま、分刻みで記録されている。
あたり一帯をなめるように発掘して、当時発射された弾丸がすべて博物館に納められている。
100 年ほど前の南北戦争の歴史も克明に記録され、関連の博物館が東部・南部の戦跡に多く残されている。
その精密さと少ない歴史を記録しようと言うアメリカ人の エネルギーには驚きを禁じえない。
最近では変わっているのかも知れなしが、先住民族としてのアメリカ・インディアンの歴史についてはそれほど関心が払われているようには思われなかった。

ヨーロッパにはその歴史に深さと多様性があるため、「歴史的なもの」への住民の関心が根強いように思う。
また、人々の歴史感覚そのものがヨーロッパ人を形 成しているものと言っても過言ではあるまい。
それに言語と歴史そのものが複雑 に入り混じっている。とくにアメリカの単一言語、単一文化に比較するとヨーロッパの各地域の多様性、複雑さには目を見張るものがある。
とくにヨーロッパ中央部に位置するスイスでは23の各州・各カントンごとにそれぞれ異なった歴史、文化、言語を持っていると言ってもそれほど大きな間違いではない。
とくに スイス・ドイツ語はハイジャーマンとはかなり異なり、地域ごとにアクセント、 発音がかなり異なると言う。
その人の話すスイスドイツ語でそのひとの出身の村・町がぴたりと当てることができると言う。

そう言ったヨーロッパの多様性、歴史・言語の相違という側面と同時に汎ヨーロッパ的なもの、統一ヨーロッパ的なものへ向かう動きと言うものが、海の潮のごとく行ったり来たりしている。
とくに若い世代はフランスでも、ドイツでも、イギリスでも、もぼ共通な関心と考えを持っているようにも覗われ、いわゆる「ユーロ・ビジョン」世代と言うものが育っている。
年配の人々がそれぞれに過去の苦い歴史と思い出をひきずって他の国々の々とは若干の距離を置こうとしているのとはやや対照的である。

わたしの周囲では、フランス人とドイツ人、英国人とフランス人、イタリア人とドイツ人などのカップルがたくさんいる。
特に驚くことではないようだ。それはアメリカでそれぞれの両親の出身国が異なる人々がカップルとなるのと同様のことである。
日本でもアジアでも少し前まではおおらかな交流があったに違いない。

一つだけ言えることは、20世紀が終わりに近づき、21世紀が展望できる現在となって、ヨーロッパ人の融合、統合、アメリカとヨーロッパの緊密化が一段と進むようになったと見られることである。
それに日本、中国、アジアとも結んで、グローバリゼーションの波が大きく押し寄せてきている。
これは個々人のちから、個々の国のちからでは止めることができないように感ぜられる。

航空機料金の低価格化、電話・情報伝達コストの低廉化、インターネットの普及がこうしたグローバリゼーションを一気に進めようとしている。
あと十年もするとわれわれはかなりの変化を遂げた、アメリカ人、ヨーロッパ人、日本人を見ることが、できるようになるのではないかと考えている。

老齢プログラマの所感

欧米は「ヨーロッパ」と「アメリカ」を意味しますが、実際にはこれらの地域は多様性に満ちています。
ヨーロッパだけでも、文化、歴史、言語、経済などが国ごとに大きく異なります。
アメリカも、北アメリカと南アメリカとでは大きな違いがありますし、特にアメリカ合衆国は州ごとに異なる特色を持っています。
なので、具体的な状況に応じて「欧米」という括りを使うときは、その地域の特性や違いを考慮することが重要です。

ヨーロッパ系アメリカ人にとって「ヨーロッパはかれらの父母・祖先が住んでいたところ、こころのふるさと」であり、
ヨーロッパ人にとって「二人に一人くらいは兄弟、姉妹、 いとこがアメリカに暮らしている」
というのが、ヨーロッパとアメリカの基本的な関係なのでしょうか。

欧米人から見れば、欧米と言うくくりは大雑把すぎるかもしれません。
しかし、日本人にとって、彼らを理解するには、このくくりから理解しなくてはいけないような気がします。

補足

上の記事は1997年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の住職の遺作「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さり、今は住職の息子によって公開されています。
当時、このようにお世話になったことを思い出し、復刻していました。

ある日突然、「ライン随想録」の目次が検索で見つかるようになりました。
しかし、ここから記事へのリンクが途切れています。
これが理由で、今まで検索しても表示されなかったのかもしれません。
そのため、復刻作業は今までどおり続けることにします。


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