
進化する物質 それがいつか生命になった
初めに
現存の複雑な生命システムは決して地球上に突然登場したわけではない。
市橋先生:より単純な分子システムが進化により数十億年にわたって磨き上げられた結果である。
生命の起源に関する最も有力なRNAワールド仮説の前提は物質の進化です。
物質が進化してあるとき生物になったという考え方です。
今までの「生命の起源」シリーズでは、初めての生命がどのように誕生したかを追いかけてきました。
今回の「進化」シリーズでは、生命の起源のもう一つ重要な要素である進化について、追いかけてみたい。
進化の理解の方法
市橋先生:物理学者ファインマンは「自分で作れないものは、自分が理解できていないものだ」と言った。

市橋先生:この考え方は生命システムの理解にもあてはまる。国際的にも人工的に細胞を合成して生命を理解しようとする機運が高まっている。
そうだ、試験管内で生命を作ってみよう。
しかし、生命を作るって、多数の部品から成る懐中時計を1/10000のサイズにして組み立てて動かすより難しい。

今ではこんなに複雑な地下鉄だって最初は 浅草ー上野 ルートだけだった。
市橋先生:生物だって、最初は簡単だったはず。
・最初は、進化可能な最小限の機能の分子システムを試験管内で構築する。
・次に、進化に生命を「作らせる」過程を観察する。
・これで、生命が誕生するプロセスを理解できるのではないかと考えた。

進化する物質
生命とは物質から自然発生したはずです。
偶然につながってできた物質が生命だったと考えるのは、戸谷先生の例えでは「10の100乗匹のチンパンジーが一斉にKBを叩くと、その1つが確率的にシェークスピアの文章になる」ほど低い確率なのです。
138億光年の宇宙では起こりえないと言えるほど確率的に低いのです。
しかし、もし単純な物質が進化し、進化の結果が生命だとしたら、
その進化する物質が簡単なものであったなら、
最初の進化する物質が単純であれば、その物質の発生確率は高まります。
生命の誕生は時間が解決する問題になります。
生命が誕生する鍵は「進化」なのです。
鍵となる「進化する物質」はどれだけ見つかっているのでしょうか?
リボザイム
1989年のノーベル賞対象物質です。
リボザイムはRNAワールド仮説の中核をなす進化する物質の一例です。
リボザイムは特定の配列を持つRNA鎖であり、自分自身を切断したり、貼り付けたり、挿入したり、移動したりする能力を持っています。
この機能が、生命の起源においてRNAが中心的な役割を果たしたとするRNAワールド仮説を支持する重要な要素になっています。
各種リボザイムが研究・開発されています。
課題は
・構造が複雑すぎることです。
・さらに、物質からどのように発生したのか不明なのです。

人工的に開発されたRNA合成能を持つRNA酵素。
ただし、現時点では自分自身を合成するほどの能力はない

ATPなどを感知、連結活性を制御できる「アロステリックリボザイム」の開発に成功

実験では追跡することのできない反応の経路や詳細な仕組みを調べることに初めて成功
市橋先生と水内先生が発表している最小限の自己複製RNA
市橋先生:最小限のRNA自己複製を探し、20塩基のRNAを特定した。
20塩基の簡単なRNAです。
これが自己複製し、進化すれば、いずれ生命にと考えたくなります。

しかし、下記の問題があると先生から記事へのコメントです。
・複製の効率は悪いです。今のところ元のRNAの数%しか複製できません。
・複製が起こる条件も極めて限定されています。
L-aTNA
名古屋大学はPre-RNAワールド仮説に適合する人工核酸XNAとして、L-aTNAを提案しています。
RNAよりも構造が単純である
RNAと二重鎖形成が可能(RNAへ配列情報の伝達が可能)
酵素に頼らずに自己複製が実現できる

RNAワールド仮説を下記のように書き換えることになります。

終わりに
リボザイムの発見によってRNA仮説ができました。
市橋先生により、短い自己複製RNAが発見されました。
しかし、複雑すぎる、自己複製機能が弱いなどの課題があります。
この課題が改善されたPre-RNAワールド仮説ができました。
まだ、この課題を改善する進化する物質は世界中で探索中です。
近日中に驚くような発展がありそうです。
この分野と市橋先生の研究を追いかけ続けたいと思います。
【進化する物質】新マガジン
それがいつか生命になった(本記事)
いいなと思ったら応援しよう!
