A4小説「献血巧者」

 なんやかんやと増えたポイントカードの整理をしていた。ほとんどのカードはアプリになり、スマートフォンで使えるようになっていたからだ。アプリを開くとすぐにポイントカードのバーコードが表示され、それをレジでスキャンすることでポイントが加算される。それぞれのカードを持つ必要が無くなり、スマートフォンひとつで事が足りるようになっていた。使わなくなったカードは捨てるには少し抵抗があったため、100円ショップで買ったカードケースに入れて分けていた。その作業中に、河田は献血手帳を見つけた。
 河田が最後に献血をしたのは大学生のときで、10年以上も前になる。久しぶりに行ってみるかなと思っていたところ、よく行くショッピングセンターの入り口に「献血バスのお知らせ」と案内が貼ってあった。河田は献血バスが来る日に合わせ、ショッピングセンターに足を運んだ。
 久しぶりの献血だったが、血圧や血色素数も問題なく、事はスムーズに運んだ。「献血手帳」は「献血カード」になっていて、これもアプリがあるらしかった。お茶かスポーツドリンクを貰えるようで、断わろうとしたところ「400mlも献血するのだから絶対に水分を摂らないといけない。」と強めに注意された。
 献血後はバスの中で10分程度休憩し、献血カードを受け取り外へ出た。そのとき、車内で渡された粗品とは別に、また粗品を貰った。10個入りの卵を2パックも貰った。消費期限まで日にちはたっぷりあるし、かなり嬉しかった。
 それから数回、ショッピングセンターに来る献血バスを利用していたが、コロナ渦になり、卵の価格が高騰し、貰える卵は1パックに減り、その後ウェットティッシュになった。粗品目的で献血をしていたわけではないが、それでも卵を貰えるのは嬉しかった。
 河田は例によって献血カードもアプリで使えるようにしていたが、献血ルームだと予約をすることができるということに気付き、今度はバスではなく献血ルームで献血をしてみることにした。
 献血ルームは商店街にあり、買い物ついでに立ち寄るのにちょうど良かった。予約時間の少し前に到着し、名前を呼ばれ手続きを済ませた。手首には15番のリストバンドが巻かれた。
 学生時代から間隔が開いたとはいえ、河田は献血にすっかり慣れていた。
 番号を呼ばれシートに腰掛ける。献血中の足の運動などいつも通りの説明を受ける。穴がはっきりと見えるほどの太い針が左腕に刺さる。手を軽く、握ったり緩めたりを繰り返すことでポンプのように血液を送り込むことができると河田は考えており、そして実行していた。「400の数字が0になれば終わりですからね。」と言われて始まったが、機械に表示されている400の数字がどんどん減っていく。めちゃくちゃ早い。すっごいキモい。15番の河田が12番の人より先に400mlをとり終えた。本人が気付いていない才能のひとつに「献血」がラインナップされていた。

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