A4小説「プレイメイツ」

 谷口と茂田は「グッチ」「しげぽん」と呼び合うほどに非常に仲が良かった。出会ったタイミングは共に40歳を過ぎてからと遅かったが、ほとんど会わなくなった中学・高校時代の同級生や職場の同僚などよりはずっと近しい存在となっていた。
 谷口はマッサージ店を経営しており、中でも足ツボマッサージは「痛くない足ツボマッサージ」として評判だった。肩や腰のマッサージも丁寧で、高齢の客にも喜ばれリピーターも多かった。そんな谷口の店に、ゴルフで疲れた足を癒しにやってきたのが茂田だった。
 年齢が近い茂田は接しやすく、二人ともパチンコが好きということもあって、つい時間を過ぎてマッサージを続けてしまうこともあった。「0の付く日はイベント日だから狙い目。」「あの店はその台は少ない。」などとパチンコ談議に花が咲き、休日には二人でパチンコ店へ出かけることもあった。そしてどちらかが負けていても、もう一方が勝てば一緒になって喜べる、そんな仲になっていた。
 茂田はというと歯科医院を営んでいた。祖父の代から続いており古くからの患者が多く、その患者の子も茂田歯科に通うなど「町の歯医者さん」といった感じだった。そして当然のように谷口も歯のメンテナンスには茂田歯科を利用していた。毎回ツルツルになった歯に大満足だった谷口は茂田歯科を褒め、茂田は身体が軽くなると谷口のマッサージ店を他人に勧めていた。
 二人でパチンコに興じていたある日「お互いの職場にそれぞれの広告を置いてみてはどうか。」という話になった。どうして今まで気が付かなかったのか、それぞれの常連さんがお互いの店・医院を行き来するなんてとても良い話だ。などと言っていたちょうどその時、二人ともに当たりがついた。茂田の方は単発で終わったが、谷口は20連チャンし二人の興奮は最高潮に達した。そしてその勢いのままに「二人で足ツボマッサージ歯科医院をやろう!」という流れになった。
 かくして、谷口茂田の共同経営のもとリラクゼーション歯科医院が開業した。歯医者での待ち時間に簡単なフットケアも受けることができると利用客には概ね好評だった。
 ある日、歯科とマッサージの両方を予約していた患者が「急用ができて早く帰らないといけない。歯の治療をしながら足ツボマッサージも同時にできないか。」と言ってきた。「歯の治療中に動かれるのは危険だ。」と説明するも「急いでほしい。」の一点張りで、仕方なく要望に応じることになった。谷口の足ツボマッサージは痛くないが気持ち良い。患者は歯の治療中にも関わらずついウトウトしはじめ口を閉じてしまう。茂田が困っていると谷口はマッサージをわざと痛くし患者の目を覚ました。アメとムチのような治療と施術で患者の自律神経は乱れ、治療・施術後には汗だくになっていた。逆に疲れていた。谷口と茂田もヘトヘトだった。ただ何故か達成感は大きかった。谷口・茂田・患者の三人でしか達成しえない何かだった。患者は岡田といい、ヘアサロンのオーナーでパチンコが趣味だった。
 後日「リラクゼーション歯科美容院」という看板を見た男が、マッサージと歯の治療とヘアカットの予約を同日に入れた。男は大のパチンコ好きだった。

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